一部報道で郵便局の統廃合に言及した日本郵政の増田寛也社長がその火消しに躍起になっている。直後に全国郵便局長会(全特)会長と会談したほか、社員には一斉メールで「経済合理性だけでその是非を判断するべきではない」などと強調した。また、自民党に対しても、郵便局ネットワークを維持していく考えを説明し、事態の沈静化をはかっているが、溝は埋まっていないようだ。
問題の記事が日本経済新聞の1面トップを飾ったのは5月12日。「郵便局網『整理が必要』 郵政社長 統廃合の検討表明」との見出しで報じられた。もっとも中身を読むと「2040年ごろをめどに『整理が必要になる』」というもので、かなり先の話でもある。
だが、その波紋は大きく、週末をはさんだ翌営業日の15日には、増田社長は全特の末武晃会長と急遽(きゅうきょ)会談した。この日はグループの決算発表日。そんな立て込んだ日に郵便局長のトップとの会談がセットされたことに事態の深刻さがうかがわれた。
関係者によると、会談は15分程度だったが、末武会長が「今回の報道は大変遺憾だ」と厳しく抗議。これに対して増田社長は「誤解を与えた」「発言をうまく切り取られた」などと釈明したという。
■全社員にメール送信
増田社長は会談から2日後の17日、今度は全社員に対して「日本郵政グループ社員の皆さんへ」と題したメールを一斉送信した。
「一部報道で郵便局の統廃合に関する記事が出ておりますので、誤解のないように、私の考えをお伝えします」という文章で始まったこのメールでは、「郵便局ネットワークは、日本郵政グループにとっての貴重な経営資源」と郵便局の重要性を繰り返し強調した。
しかし、社員とりわけ郵便局長らの反応は「今さら何を言っても信用できない」「経営者ではなく評論家」と冷ややかだった。
波紋は永田町にも及んだ。自民党の「郵便局の新たな利活用を推進する議員連盟」(山口俊一会長)は6月1日、幹部会を開いて増田社長に説明を求めた。
増田社長はここでも「誤解を与えることになって申し訳ない」と陳謝したうえで、社員に対してメールで真意を発信したことなどを説明した。
これに対し、出席議員からは「郵便局の統廃合という大問題を、(社員に)紙切れ1枚で終わらせるのはおかしい」「火のないところに煙は立たない」「郵便局と会社が日頃から意見交換をしていればこんな記事は出なかった。責任を感じるべきだ」と厳しい意見が相次いだ。
それから半月あまりたった18日、全特は那覇市で年1回の総会を開いた。総会には例年、日本郵政社長が来賓として出席するが、そこに増田社長の姿はなかった。これは異例のことだった。
欠席理由は「19日からのグループの株主総会の準備」としたが、ある出席者は「あの人は現場も見ないで言い訳ばかり。もし来ていたら大ブーイングが起きただろう」と語る。
全特会長との会談、全社員へのメール、さらには自民党への説明を経てもなお不信感は払しょくできていないようだ。そればかりか溝はむしろ深まったようにも映る。こうしたなか、増田社長は21日の株主総会で再任される見通しだ。(福島徳)
最終更新日:6/20(火)20:19 産経新聞