通勤中などの忙しい時間に、頼むとサッと出てくる「駅そば」は、規模の大きな駅を中心に全国で見られます。それに対し、意外と見かけないのが「駅ラーメン」です。例えばJR大宮駅 京浜東北線ホームにある「駅そば大宮」のように、そば・うどんと一緒にラーメンを提供している店はあれども、今や「国民食」とすら呼ばれるラーメンをメインに出す店は、駅では少数派です。
その理由として、やはり「茹で時間」による手間が挙げられます。半生状態の麺を番重(ばんじゅう)で保管し、注文が入ると同時にさっと茹でてすぐ提供できるそばと違って、ラーメンは水を吸いやすく「茹で置き」ができません。また、茹でるとかん水が溶け出すため、お湯も早めの交換が必要となり、限られたスペースでの調理・提供には相当なハンデがあると言えるでしょう。
数少ない「駅ラーメン」のなかでも利用者が多いのは、JR博多駅、小倉駅などのホームでJR九州の系列企業が経営する「ぷらっとラーメン」ではないでしょうか。立ち食いカウンターはどこも数人で満員になる狭さですが、その味は、手早にいただく一杯としては十分すぎるほどのクオリティです。なお博多駅や小倉駅には他にも駅そば・うどんの店がありますが、名物「かしわうどん」をウリにしていることもあり、ホームで「そば」を食べている人は少数派です。
九州の駅でラーメンが優位を保つ理由は、一般的な中華麺よりおおよそ1~2割はスリムな九州独特の細麺にあると考えられます。麺の硬さのオーダーが「バリカタ」(だいぶ固め)であれば、茹で上がりまでものの20秒ほど、スープとネギをかけて提供するだけで、紅ショウガやすりおろしニンニク、ゴマ、辛子高菜でラーメンを彩るのは客の役目です。これらの補充は大変ですが、店舗内におけるオペレーションはそば店並みに効率が良いと言えるでしょう。
このほかにも、同じ東京駅の「ニッポンラーメン凛」や、近鉄 大阪難波駅構内の「なにわ麺次郎」(大阪市内の人気店「燃えよ麺助」「麦と麺助」の流れを汲む)など、改札を出ずに食べることができる本格的なラーメン店は徐々に増加しています。
なかには2016年に阪急の大阪梅田駅へオープンした「京都 麺屋たけ井 阪急梅田店」のように、鉄道では行きにくい場所にある名店が突如としてターミナル駅の改札内にあらわれることも。いまでこそ出店が拡大している同店ですが、当時は他の店が梅田はもちろん、それぞれの最寄り駅からも相当離れており、「特製藁納豆との相性が抜群」という「たけ井」でしか味わえないつけ麺のために入場券を払ってまで食べに行くファンが詰め掛けていました。
鉄道事業者は飲食店に限らず改札内テナントのクオリティ向上に取り組んでおり、人気ラーメン店を誘致する背景には、少しでも駅や鉄道を利用してもらうきっかけ作りの側面があると言えそうです。
地方では、駅舎をまるまるラーメン店にするケースも見られます。浜松市の天竜浜名湖鉄道 気賀駅は、国の登録有形文化財に指定された歴史ある駅舎の半分ほどのスペースを使って、「中華屋 貴長(きちょう)」が出店しています。もともと無人駅で入場料もかからず、鉄道利用者だけでなくツーリングの立ち寄りコースとしても人気を集めています。看板メニューは、緑色の麺を使ったオリジナルの「貴長塩ラーメン」です。
北海道小清水町にある釧網本線 止別(やむべつ)駅は、駅舎のかなりのスペースが「ラーメンきっさ えきばしゃ」として利用されています。止別駅に停車する列車は1日7往復、1日の乗降人員は10人以下とされますが、ラーメン店の方は、鉄道をはるかに超える賑わいを見せています。
このように駅ラーメンは、「駅ホームの立ち食いラーメン」「駅構内に出店した人気店のラーメン」「駅そのものがラーメン店」など、あり方はさまざま。ラーメンはそばと比較するとアツアツなので、気持ちゆっくり目に味わうことをおすすめします。
最終更新日:1/21(木)22:16 乗りものニュース