新型コロナウイルスの感染拡大で、雇用情勢が悪化している。完全失業者は昨年11月時点で約195万人。前年同月比で44万人も増えた。非正規や派遣社員の雇い止めが指摘されるが、正社員でも解雇されるケースが増えている。会社からどのように解雇を告げられ、それをどう受け止めたのか。電機、ディズニーランド、飲食。当事者に話を聞き、実態を探った。(ジャーナリスト・岩崎大輔/Yahoo!ニュース 特集編集部)
「ワンマン社長のもと、長時間労働や責任の重圧で過労死するんじゃないかと思っていました。腰痛もひどく、ストレスによる睡眠障害もあって体はボロボロだったんです」
草木さんは通告を受け入れ、5月末で会社都合退職となった。現在、失業手当は月額約20万円。解雇から半年以上が経過し、起業も視野に入れつつ就職活動をしているが、まだ再就職できていない。
「面接には行っているのですが、自分の持病を心配され、『うちでは厳しいかもしれません』と断られる。コロナ禍で健康面が重視されているからでしょうか。失業手当が切れる3月までに何とかしないと……」
いまは友人に送ってもらったカロリーメイトと野菜ジュースを栄養にし、一日一食の日が続いているという。
当初、3月15日までだった休園は6月末まで延長された。休業補償は3月から9月末まで、通常勤務時の8割まで引き上げられた。ただし、鈴木さんは休業補償を6月末までしかもらっていない。7月1日からの営業再開でキャラクター出演者として復帰することになり、休業補償から外れることになったからだ。
園は再開したものの、入場者数は1日1万5000人程度に絞られることになった。出演者の労働時間も大きく削られ、鈴木さんのキャラクター出演は週2~4日と制限された。その影響で、6月末までは休業補償で約15万円ほどだった月収が、7月以降は8~12万円ほどに減った。
今回、会社が示した三つの選択肢について、準社員らからどのような反応があったのか、オリエンタルランド広報部に尋ねたところ、個別の状況についてはお答えしていないと書面で回答があった。また、4月以降のキャラクター出演やダンサーの出演について優先的な雇用という要望があることについても尋ねたところ、下記のような回答だった。
「従前から出演者契約については、ショークオリティ維持の観点からオーディションに合格した方と契約を結んでおります」
出演者やダンサーから相談を受ける、労働組合「なのはなユニオン」委員長・鴨桃代氏は嘆息する。
「オリエンタルランドは正社員、嘱託社員約4000人の冬のボーナスを7割減らし、雇用を守ったといわれています。けれども、従業員2万6000人のうち8割を占める、東京ディズニーリゾートの現場を支えるキャスト(アルバイト、パート)には厳しい選択肢を突きつけました。アナリストによれば、同社は3000億円の現金および預金残高もあり、1年間客がゼロでもやっていける、という優良な財務体質のようなのですが……」
小学生の息子と妻と暮らす高橋さんが同社に転職したのは2015年のこと。過去に居酒屋チェーンで店舗マネージャーの経験もあり、店を任されるのも早かった。だが、コロナで事情は一変した。3月下旬、高橋さんより10歳近く若い本社の営業部長が、開店の1時間ほど前に店に現れると、「存続が危ないかもしれません」と告げてきた。高橋さんが振り返る。
「各店舗によって対応は違うものの、うちの店は一時的に閉める可能性が高いと営業部長に言われました。その前にまずこの店舗の調理担当を1人減らすことになるが、それは私から言ってほしいとも。調理担当は20代後半で仲が良かったので、この通告は心理的に重かったです」
高橋さんが「本社の判断」として調理担当に解雇を伝えると、「高橋さんは大丈夫なんですか」と逆に心配された。私もわからないと答えたが、4月下旬に再び営業部長がやって来た。
一時的な店舗の休業の通達とともに、「たいへん苦渋の決断ですが、経営破綻を免れるために解雇とさせてください」と頭を下げられた。そのとき、高橋さんは意外と落ち着いていたという。
「ニュースで厳しい状況の人を多く見ていたし、自分が調理担当者に解雇を申し伝えなければいけなかった経験も大きい。彼に伝えた仕打ちを自分が受けるのは、仕方ないことだろうなと思っていました」
「問題は、この数字を近年のGDPと失業者数にあてはめると、計算上は7.5万人の失業者が発生するということです」
昨年12月末の東京商工リサーチの発表によると、新型コロナウイルスに関連する経営破綻は昨年2月からの全国累計で843件。ほとんどが中小・零細企業と報告された。今回の再発令で、さらなる被害が想定されると永濱氏は言う。
「もう非正規だけの話ではありません。リストラや借入金で何とか事業を続けている会社がこの先どこまでもつのか。会社が倒産、廃業となれば、もっと影響は広がります。雇用は経済の基盤。GDPや日経平均の数値よりも、雇用が失われないかどうかが大事です。経済政策の根っこは働きたい人に働く場所を与えること。政府はそれが維持できるかが問題でしょう」
仮に10万人以上の人が職を失えば景気の低迷は避けられない。感染拡大を抑えつつ、どこまで経済を維持することができるのか。政府の手腕が問われている。
最終更新日:1/20(水)17:51 Yahoo!ニュース 特集