ライバル企業がタッグを組む動きが広がっている。環境問題や人手不足などが、もはや1社だけでは解決できない段階にきているからだ。ただ、タッグを組むまでの意思決定や現場との調整は簡単ではない。企業はどのような局面に立った時に協業を決断するのか。2020年に協業への道を歩み始めた大手企業を取材した。(ライター・国分瑠衣子/Yahoo!ニュース 特集編集部)
花王が着目したのが、使用済み詰め替えパックのリサイクルだ。ただ、パックはポリエチレンやナイロンといった複数の素材を組み合わせて強度や保存性を保っているため、分離するのがそもそも難しい。
花王は2016年から、北海道や宮城県など5自治体で詰め替えパックを回収し、裁断・洗浄して再生樹脂にした上で、ブロックにリサイクルしている。ただ、ブロックではいずれ供給過多になる可能性が高く、コストもかかることが悩みの種だった。
一方、ライオンは2015年から使い終わったハブラシをプランターなどにするリサイクルを進めてきたが、リサイクルの対象を広げることができないか模索していた。
詰め替えパックのリサイクルが進むには、技術の開発に加え、小売店や行政のサポートも必要になってくる。日本では使用済みのプラスチック容器の回収は、市町村など自治体が行っている。回収量を増やすには、ボックスを設置する小売店と回収する自治体の連携も不可欠だ。
花王とライオンは2025年には年間1万トンの詰め替えパックの回収を目指す。これは国内の詰め替えフィルム容器の約2割にあたる数字だ。
花王のマテリアルサイエンス研究所の南部博美・副所長は「『ジャパンモデル』をつくり、リサイクルを再定義するぐらいの気持ちで臨みたい」と意気込む。
実証実験では、お台場や有明地区の3社のコンビニ計40店舗へ一日に二十数便運行し、移動にかかる時間や荷物の積載量、CO2の削減効果などを調べた。
結果は各社が個別に配送するよりもトラックの走行距離を1割以上短縮でき、積載率も最大3割アップしたという。
地方では「信書」以外の協業が始まっている。人口約1100人の宮崎県西米良村(にしめらそん)では昨年3月から、日本郵便、ヤマト運輸、佐川急便の3社による宅配便や郵便物の共同配送がスタートしている。
配送は、村が運営するコミュニティーバス「やまびこ」を活用。「ホイホイ便」と名付け、乗客と荷物を一緒に載せて運ぶ。村の輸送サービスと運送事業者の配送の両方の効率を上げる狙いがある。この「貨客混載」は、2017年の国の規制緩和をきっかけに、人口減少に悩む地域で広がっている。
ホイホイ便は、村の中心部から高齢化率が高い小川地区までの21キロを一日3往復する。小川地区に到着すると、村から委託された配達員が各戸に荷物を配る。中心部に戻る時は地区の郵便ポストから回収した郵便物を運ぶ仕組みだ。
中川准教授は「フードロスや物流のドライバー不足などの社会課題は、1社だけではとうてい解決できない。また、他社と協業することで原材料の調達など自社のコストダウンにもつながります」と話す。
とはいえ、長年競ってきた企業が手を組むきっかけをつくるのは難しいとも映る。そんな懸念に対し、中川准教授は企業のトップが意識を変え、声を上げていくことに尽きると指摘する。
「特に大きな市場ではトップ企業がイニシアチブをとる必要が出てきます。例えば自社が持っているデータをオープンにして、協業のメリットをわかりやすく伝えることも方法の一つではないでしょうか」
競合から協業へと舵を切る日本企業。資源やノウハウをシェアしながら、新しい道を進み始めた。
国分瑠衣子(こくぶん・るいこ)
ライター。北海道新聞社、繊維専門紙を経て2019年にフリーに。「週刊東洋経済」「弁護士ドットコム」などで取材、執筆。地方の中小企業と大企業の副業人材をマッチングするスタートアップでオウンドメディアも担当。
最終更新日:1/16(土)19:32 Yahoo!ニュース 特集