「あ、ネコが料理を持ってきた」
ファミリーレストランでこんな風景を目にすることが増えた。「配膳ロボット」によって、レストランの光景はこの2年ほどで一変した。
ロボットとフロアスタッフの「協働」を日常風景にした立役者と言えるのが、外食大手のすかいらーくだ。
グループ全体で2021年11月ごろからネコ型配膳ロボの本格導入が進み、2022年12月には全国2100店舗での大規模導入を完了した。
すかいらーくは2月に公表した2022年度通期決算で56億円の営業赤字に転落しており、「極めて厳しい状況にある」(谷真会長兼社長、上半期決算会見にて)として、V字回復に向けた危機感がどこよりも強いことは疑いようがない。
すかいらーくを取材して見えてきたのは、「ネコ型配膳ロボ」の大規模導入にかける、外食大手の本気度だった。
わずか1年足らずでロボット導入を成功させ、何を変えたのか?外食大手のトランスフォーメーションを取材した。
「ロボットと協働する」という新しい形の店舗オペレーション。すかいらーくは、大規模導入にあたり、ある秘策を使っていた。
それが、現場のオペレーションを知り尽くす従業員による導入専門チーム「インストラクター」を、いわば特命チームとして組織化したことだ。
取材で判明したのは、チームの構成員は基本的に全て社員。しかも「最低でも店長経験者以上」という、すかいらーくにおける現場のプロを集めたチームだということ。
「社内では『インストラクター制度』と呼んでいます。最大で17名(2023年3月時点では6名)を店舗のロボット導入支援に配置しました。インストラクターには先行して試験導入した店舗の従業員や、店舗を統括するスーパーバイザーを引き抜いています」
花元氏は、このインストラクターチームを統括している。
2100店舗の大規模導入が成功できた一因は、このチームを作ったことにあったのではないか。インストラクターを組織したことの重要性は、チームがどういう作業をするのかを知るとよく分かる。
「ロボットの導入当日には必ずインストラクターが店舗に出向き、各現場に合わせて設定と修正を繰り返します。例えばドリンクバーの前を通る場合でも、店舗によってお客様の邪魔にならないルートが変わってくるからです」
なぜ店長以上の人材にしたのかにも理由がある。
「これだけ導入が進んだのも、インストラクターによるきめ細かい対応と改善があったからです。
初期に導入された店舗では、視察に来た営業部や店長とも対等に話ができなければいけません。そこでインストラクターには、店舗のオペレーションを熟知した店長経験者などを社内から集めてきました」
インストラクターの働きぶりの猛烈さは数字にも表れている。
導入は一人あたり1日1店舗が限界だそうだが、最大17名のインストラクターによる稼働もあって1カ月で300店舗導入したこともあるという。
ロボット導入は谷会長兼社長によるトップダウンの意思決定だったが、一方で、導入初期の「現場からの反発」はなかったのだろうか。
「当初はロボットに対して半信半疑な従業員もいたはず」とは言うものの、反発というよりはむしろ歓迎の声が多かった、と花元氏は言う。
「(実物を見て)自動で(ネコが)配膳するのを見ると、従業員の目の色が変わるんです。
役に立つだけでなく、簡単に運用できると分かれば、どんどん使おうという気持ちになってくれます。
これはインストラクターがきちんと各店舗に合わせて導入してくれたおかげですね」
業務効率化の成果は、過去に決算会見でも定量データとして公表している。
例えば、ガストではランチピーク回転率が7.5%向上、片付け時間が35%削減、歩行数も42%削減されている。
花元氏によると、フロアスタッフの歩数は、広い店舗ではわずか数時間で1万歩を超えるほど。これがほぼ半減するので、むしろ現場からロボットを歓迎する声が多いというのは納得できる。
従業員は、他の業務に集中できるようになり、ドリンクバーやトイレの清掃などにかける時間が増えたという声もある。
うれしい誤算だったのは、大規模導入を始めたことで来店客側の認知度が上がり、冒頭の通り、店舗側主導で「ロボットが来る日」をお知らせするなどのムーブメントが草の根的に生まれたことだ。
店舗でも導入が決まると従業員が自発的に「◯月◯日に新たな仲間が加わります」とポスターを貼ったり、SNSでは耳をなでると反応するロボットが働く姿が拡散されるようにもなった。
最終更新日:4/3(月)9:55 BUSINESS INSIDER JAPAN