古着ファッションの“聖地”である福岡市中央区の大名エリアで今、古着店の出店ラッシュが起きている。この数年のブームで東京や大阪から出店が相次ぎ、地元勢も負けじと対抗。その数は昨年以降、10店舗を超える。天神のファッションビルも古着店をテナントに迎え、出店合戦が熱を帯びている。 (水山真人)
「福岡が狙われている」-。大名の古着店関係者に衝撃が走った。昨年10月から年末にかけ、一気に5店舗が新規出店、県外から攻勢をかけられたからだ。
昨年11月に大名に進出した「KAKAVAKA R(カカヴァカ アール)福岡」は約150平方メートルの大型店。ジーンズなど定番に加え、流行のワークウエアやアメフトチームのスエットなどアイテムは多彩だ。担当者は福岡進出の理由を「大阪市の本店に訪れる九州のお客さまからの要望が多く、応えた」と話し、売れ行きについて「勢いがある」と声を弾ませた。
同じ頃にオープンした「yutori(ゆとり)」(本店・大分市)も大名で希少価値の高い年代物古着「ビンテージ」より、流行の洋服を安く販売する。佐藤信太店長(22)は「古着屋巡りがあるのは東京の下北沢と大名。大名に出店するのが目標だった」と語る。
その下北沢からの流入組も。下北沢に6店舗を構える「iot(イオット)福岡店」は欧州製の柄物など「デザイン古着」路線だ。俳優の菅田将暉さんらが取り入れているといい、昨年10月の福岡パルコ(福岡市・天神)への期間限定出店で売れ行きが良かったため、11月に大名に正式出店。盛沢理仁店長(23)は「若い人にニーズがあるけれど、福岡にないジャンル。2店舗目も出したい」と意気盛んだ。
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商店街や住宅地だった大名は1990年前後ごろから古着店や洋服店を若者が巡るようになり、ファッションの街として発展した。
近年、2000年ごろの服装がY2K(ワイツーケー)ファッションと呼ばれ、若者に古着が流行している。Yは「Year」(年)、Kは「千」を指し、2000年を意味するという。
2月下旬、大名で古着店を巡っていた長崎市の高校3年の女子2人組は「古着は味があるし、ほかの人と同じ服にならないのがいい」と笑顔だった。
内閣府によると、30代以下の勤労者世帯(2人以上)の消費支出は1990年代半ばから1割減少。安価な古着の需要が高まっているとの説もある。
天神や博多駅周辺の商業用物件に特化した不動産会社「リーシングサポート」(福岡市)の担当者は「古着店は今、最も元気が良い業種の一つ。コロナ禍で空いた物件を埋めている側面もある」と語る。
福岡パルコの担当者も「数年前から古着ブームで、10代を中心に需要がある」と解説する。17年以降、古着を扱う4店舗をテナントに迎えた。古着店側にも路面店よりも女性客を取り込める利点が生まれているとし、担当者は「大名と行き来する客層が増えてほしい」と期待している。
福岡の老舗も競うように21年以降、大名に2店舗を出した。1986年創業の老舗古着店「HHG」オーナーの坂本道生さん(64)は「大名が古着の街としてにぎわうのは大歓迎。最近はアジア、欧米各国からの旅行者もよく買い物に来る。これを機に個性的な古着や雑貨の店がもっと増えてほしい」と話した。
最終更新日:3/23(木)10:26 西日本新聞