「生理に関しては、タブーのような状態になっていると思います。苦しんでいる女性も声を上げづらいし、男性もどう声をかけていいのか分からない」。産婦人科医の甲賀かをりさんはそう言う。そんななか、月経痛の診療やピルの処方など、女性特有の健康課題を福利厚生でサポートする企業が出てきている。支援をスタートした企業を取材した。(取材・文:城リユア/Yahoo!ニュース 特集編集部)
経済産業省が男女5422人を対象に行った調査では、女性従業員の52%が「月経不順や月経痛などで、勤務先で困った経験をしたことがある」と回答している(2018年1月実施「働く女性の健康推進に関する実態調査」から)。
東京大学医学部附属病院・産婦人科の甲賀かをり准教授は次のように語る。
「一人当たりの出産回数が減ったため、女性が一生のうちに経験する生理の回数は、昔に比べて増加しています。子宮内膜症は生理の回数が多いほど罹患率が高まりますし、月経困難症なども増えているのです。一方で、昔に比べて働き続けることが一般的になりました。多くの働く女性たちが生理のトラブルに直面しているといえるでしょう」
それにもかかわらず、正しい情報が広まっていないと甲賀さんは指摘する。
「生理に関しては、どこかモヤモヤとして、タブーのような状態になっていると思います。みんなが直視せず、苦しんでいる女性も声を上げづらいし、気遣いたいと思っている男性がいても、どう声をかけていいのか分からないという混沌とした状態。正しい知識を得てはじめて、議論することができます。まだ、議論の土台もできていない企業がほとんどなのではないでしょうか」
「とくに人事担当者や管理職は、レクチャーやeラーニングなどで正しい知識を得る仕組みがあるとよいのでは。また、メンタルヘルスの相談窓口を設置している企業は多いと思います。婦人科系のトラブルも、そういう窓口があるといいですよね。健康診断でも、メンタルヘルス系のチェック項目などは入っていますが、婦人科系の項目はありません。産業医にも産婦人科医はほとんどいないのです」
社員からはこんな声も出ていた。
「生理前には一日中眠かったり、倦怠感があるケースもあり、締め切りが近いタスクなどが控えていると、仕事のパフォーマンスが落ちてしまう」
「大事な会議などが控えているときに生理がかぶると、気分的にも憂鬱になる」
「1日目は痛みが強く、おなかや腰をさすりながら勤務することがある。(中略)途中休憩を取りたいが、突発的な途中休憩を入れる人が部内にあまりいないため、勘繰られるのが嫌で言い出しづらい」
同社は2020年10月から、オンライン診療を活用した婦人科受診と、低用量ピルの服薬をサポートする福利厚生制度を開始した。女性社員の比率は、全体の約4割。低用量ピルの服薬が必要な場合は、会社がピルの費用とそれにかかる診察料を負担する。オンライン診療を活用した結果、通院にかかる移動や待ち時間がなくなり、仕事を休まなくても受診できるようになった。かかった費用は人事部に直接申請する仕組みで、所属部署の上長に知られずに利用できるように配慮されている。
この福利厚生を本格始動する前の半年間、社内の希望者15名にアンケートを行った。低用量ピルを実際に服薬した社員からの回答によると、1カ月のうち「生理によって日常生活への影響が出る日数」が、平均3.1日から平均1.15日へと減少した。
「女性社員に向けたサポートのため、男性社員からネガティブな意見が出るのではないかという心配もありました」と語るのは、人事部の鷲頭有沙さん。制度導入前に、希望社員に向けた「女性のカラダの知識講座」を実施した。講師は前出の産婦人科医、甲賀さんだ。
ピルについても、あまり正確な知識が広まっていないと甲賀さんは指摘する。
「一般的にピルといえば排卵を止める避妊薬のことですが、最近ではむしろ本来“副効用”だった避妊以外の目的で飲む女性が多いですね」
低用量ピルを飲んで排卵を止めると、卵巣や子宮を一時的に休めることができる。具体的な副効用は、排卵に伴う排卵痛や、排卵後に出るホルモンによるPMSの緩和。経血の量や痛みが少なくなるので、月経困難症や過多月経なども改善し、子宮内膜症の予防にもつながる。
これらの副効用を目的とした健康保険適用の低用量ピルが日本に登場したのは、2008年のこと。その後は新しいピルがいくつも作られ、処方されたものが自分に合わなくても、違うピルを試せるようになってきた。
「『人工的に生理を止めるなんて』という方もいますが、15歳から50歳まで毎月ずっと生理があるほうが、自然じゃないという見方もあります。低用量ピルで体を休ませるのはいいことだという認識を持ってほしいです」
2020年9月、「スマルナ」を運営する株式会社ネクイノは、同社の子会社ネクイノメディカルテクノロジーズで、「スマルナ」を使った福利厚生制度を企業に提案する「スマルナ for Biz」をスタートした。現在の契約企業は、株式会社オールアバウト、株式会社g-wic、日清食品ホールディングス株式会社、株式会社ネオラボ、株式会社 Mahaloなど。ネクイノの新規事業開発室室長、青木勇気さんはこう言う。
「導入することで、会社全体としてのパフォーマンスや従業員のエンゲージメントを高められる。女性の活躍を支援する会社だとアピールすることもできます。いま企業さんとお話をしながら導入を進めているという段階ですが、今後数値化を含め、しっかり検証していきたいです」
最終更新日:1/12(火)17:51 Yahoo!ニュース 特集