ワークマン「やせ我慢」正念場?

【ポストコロナで飛び出す会社】#15

 原材料価格や輸送費の高騰、急激な円安進行を理由にアパレル業界では秋冬商品が一斉に値上げされた。しかし、作業服大手のワークマン(東証スタンダード上場)は値上げラッシュに追随しない。



 2022年2月から行ってきたプライベートブランド(PB)製品の価格据え置き期間を延長し、23年2月末まで据え置くと宣言していた。このうち、売り上げの65%を占める主力製品について同年8月まで続行することを決めた。

 価格を据え置くのは、22年1~8月末の売り上げランキング上位300品目のPBのうち、96%を占める260アイテムである。30品目は製品の寿命がきたので廃番。値上げしたのは作業長靴など、わずか10商品だけだ。

 土屋哲雄専務は22年9月14日に開いた展示会で、「値上げによる客離れのリスクは大きい。(価格据え置きは)やせ我慢どころか、氷の上にいるような感じ」と語った。

 独自開発の素材を駆使して、ウエアだけでなくキャンプ用品などの生産量を増やした。アイテム数を絞り込むことによってコストダウンを実現した。海外工場の閑散期を狙って発注することにも留意した。輸送用コンテナの積載効率を高めるために、商品タグの大きさを半分にしたり、社内の照明をこまめに消し、小さなコスト削減を積み重ねた。

 ワークマンの強みは機能と安さを両立させた商品力にある。「価格に対する絶対的な信頼感がある。円安になったからといって(安易に)値上げするのは、ワークマンの存在意義に反する」と専務の土屋は言い切る。

 製造小売業(SPA)を標榜し、PB商品が全店売上高に占める割合は32%(18年3月期)から62%(22年同期)にアップ。22年4~6月期には65%になった。「作業服のユニクロ」を名実ともに名乗る実力と陣容が整った。

 ショッピングセンターのベイシア、ホームセンターのカインズなどを擁する流通チェーン、ベイシアグループに属する専門店としてワークマンは産声を上げた。

 1980年に1号店がオープン。社名が示す通り、働く人のための作業服や軍手、安全靴などを売る店だった。

新しい業態を立ち上げる旗振り役を演じた土屋は、ベイシアグループの創業家である土屋家の一族。三井物産デジタル社長などを経てワークマンに入社。一般向けに企画したワークマンプラスが大ヒット。さらに、21年6月、千葉県流山市に「#ワークマン女子」南柏店を開業。

「これから子どもを持とうとする女性や、第1子の子育て世代を最大のターゲットにした」(土屋)

 22年2月、キャンプ用品、5月、ゴルフウエア、6月、ワークマンシューズに本格参入。小さなヒット商品を積み重ね、ブランドの認知度を高め、顧客の裾野の拡大につなげた。

 22年12月末時点の店舗数は977店。中長期的に1500店体制を目指す。ワークマンプラスは470店から900店へ1.9倍、女性向けアウトドア衣料を中心に扱う「#ワークマン女子」は25店から400店へと、実に16倍という強気の目標を掲げる。

 22年7月まで既存店売り上げは前年同月実績を上回っていたが、8月は4.0%減、9月も1.2%減とマイナスに転じた。12月に2カ月ぶりに8.1%増となった。22年4~12月期の原価率は64.1%と、前年同期より4.6ポイントアップした。

 23年3月期(通期)の、売上高にあたる総収入は前期比7.7%増の1252億円、営業利益は18.8%減の217億円を見込む。総収入(売上高)営業利益率は17.4%と、前期より5.6ポイント悪化する。それでも、価格は据え置くという「やせ我慢」経営が花開くかどうかが試されている。(敬称略)

(有森隆/経済ジャーナリスト)

最終更新日:3/1(水)11:02 日刊ゲンダイDIGITAL

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6455495

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