「観光客の数は今がちょうどいい。これ以上増えすぎても対応できないし、少なくとも困る。バランス的には今がベストに近いんじゃないかな」
新宿西口で乗ったタクシーのドライバーは、インバウンド客の増加を受けて心中を明かした。
タクシー業界は、深刻なドライバー不足の影響をうけ、利用したくてもつかまらない慢性的な供給不足が生じていることは以前の記事、「東京で深刻『タクシー、全然捕まらない』問題の原因」にも書いたとおりだ。一方、昨年10月の水際対策緩和により、街には外国人観光客の姿が戻りつつある。業界にはどのような影響があるのか、その実態に迫った。
こんな言い方をすれば失礼かもしれませんが、私たちの年代からすれば、東南アジア圏の人が「日本の物価は安い」と感じるのは考えられない事象です。日本経済は本当に大丈夫か、と同僚たちとも最近はそんな話になりますね。時代といえばそれまでなんでしょうが……」
大阪市内で複数のタクシー会社、観光バス事業を手がける「日本城タクシー」の坂本篤紀代表(58)は、観光客の戻りを複雑な胸中で見ている。
「完全にコロナ前まで戻った、とはいえませんが8割程度までは回復しています。大きな違いは、中国人観光客が消えて、タイやベトナム人が主流になったことでしょう。特に多いのがベトナム人観光客です。ウチのハイヤーも、2カ月先までずっとベトナム系の観光の方がチャーターしている状況です。
その一因には、観光客増加の影響もある。75名の外国籍ドライバーが在籍するなど、観光事業にいち早く注力してきたのが日の丸交通だ。観光タクシー部門では、既にGW頃までの予約が埋まってきているほど好調だという。もちろんこれは、去年までには見られなかった状況でもある。同社の広報担当者は、現在の外国人客のタクシー利用状況をこう明かす。
「外国人利用者の方も、アプリでの配車が占める割合が増えています。コロナ前と同等まではいきませんが、近い水準まで戻ってきている。特にUberでの配車依頼が増えており、利用者の数も非常に多い。
「タイとベトナム観光客の経済力に、この辺りのドライバーはみんな助けられているんじゃないかな(笑)。日本人ビジネス客の方なんかを乗せても、ホテル代が高くなりすぎて困っていると嘆かれますが、東南アジアからの宿泊者増の影響を強く感じますよ。実際に高級ホテルから新横浜や羽田空港、という送迎が増えておりかなり助かっています。彼らは中国人観光客の方より乗車マナーもいいので、私たちからすると上客ですよ」
インバウンド客の戻りは、街に少しずつ還元されつつある。その一方タクシー業界では、内的な要因からまだまだ恩恵を享受しきれていない実情も見え隠れした。全国各地では、手探りで適切なバランスを模索していく状況がしばらく続きそうだ。
最終更新日:2/27(月)9:01 東洋経済オンライン