高級子供服というジャンルを自ら切り開き1971年に創業。今年で創業52年となるミキハウス。
木村皓一社長が26歳の当時に住んでいた、家賃1万6000円の借家に電話1個を取りつけて起ち上げた会社は、今や社員数510人(2023年2月現在)、売上高は166億円(2021年2月期)に上る。
<【前編】アパレル業界で絶好調…! 『ミキハウス』のこども服がめちゃくちゃ「売れている」納得の理由>では、一代でミキハウスグループを築き上げた木村社長に、創業の経緯と付加価値を大切にするビジネスへの熱い想いを聞いたが、本稿では創業社長として会社経営で最も大切にしていることや、卓球や女子柔道など長年続けているスポーツ支援への想いについて聞く。
社員への気配りは、もちろん飲み会だけではない。優秀な人材を獲得するためには賃金アップも必要だ。
増えてきた外国籍のスタッフの事情を考慮すると、現状の給与額が低いことが大きな課題になった。そして国内社員の給与も含めて全体を見直す中で、ライフステージに合わせて安心して継続的に働ける環境がより重要で、全体のベースアップが必要だという判断に至ったという。
具体的には、20万5千円だった初任給を今年春から25万円に上げた。それに合わせて昨年7月に既存の社員を対象に定期昇給2%、ベースアップ10%の平均12%の給与アップを行った。また昨年10月には、パートアルバイトの募集時給も見直して、平均約10~12%アップしたのだ。
賃金を大幅にアップするのは、『業界の先頭を走っているトップリーダーという自負があるからですか? 』と聞いてみると、意外な答えが返ってきた。
「そうではなくて、僕とこね、ドバイにも行かしているし、ロンドンにもニューヨークにも、こないだシンガポールに行かしたらね、なんかね、日本は全部が安過ぎるんですよ、商品も賃金も全て。なんか離れている、この国だけ。これはアカンわと思って。
僕らキーエンス(高収入で知られるセンサーや測定器などのメーカー)に高年収で負けん会社にせなあかんと思って。それぐらいの所得の人がここで働くようにしたいなと思って」
しかし、社員の賃金を上げたら会社としては当然お金がかかる。賃金アップについて会社経営の観点からはどう考えているのだろうか。
「いや、人が育たん。今ね、転職が当たり前になってきてますやん。やっぱり働いている人の権利としてね、ある程度の賃金をもらって、楽しい自分の夢に向かってというのがあると思うけど。賃金がついて来なかったら、なんぼね、夢物語を喋っても社員を教育しても、ついてけぇへんと思う、逆の立場やったら。
頑張って出せるだけ出して、(会社が)法人税で払うんじゃなくて、(社員が)所得税で払う。税金は絶対に払わなあかん。せやけど所得税で払ったらええやん。
みんなそれで所得税で払ってくれたら、それは国の定めやから、これしゃあない。それをね『利益なんぼ上げた』言うて法人税で納めようと思うから、ちょっと話がおかしいんちゃうかな」
上げるのは賃金だけではない。付加価値の付いた高価格帯の商品の充実にも力を入れている。
「クリスチャン・ディオールとかのスーパーブランドと同じ価格帯の商品を売り出して、売れてるよねえ。(ミキハウスの既存の商品と比べて価格は)倍からシューズなんかは4倍くらい」
商品によっては価格が5倍のモノもあるという。本社の地下にある店舗で売られていた高級品シリーズの幼児用ダウンジャケットの値段は24万円だった。
高価格な商品の売れ具合を聞くと、
「売れてます。今までのお客さんでない、もう一つ上の人、値段なんか見いひんお客さんがいっぱいいてて、そういう人に受けてる。
いいもの探している人っていてるのに、僕らが知らんから、『まあダウンやったら3万円か4万円ぐらいやろ』と勝手に思ってるだけで、うちが20何万円のやつ作ったら、なんぼでもそんなん売れていく。(中国人客だけじゃなくて)日本人も」
高品質の高級品を作るのは、『いいものは付加価値をつけて高く売る』という信念からなのかと聞いてみた。
「うん、そう。それと日本からね、そういう工場がなくなってしまうもん。本当になくなる。みんな転職しますよ、そんな安い給料でいうたら。ある程度してあげないと」
会社を経営していく上で、最も大切にしていることは何かと問うと、即答だった。
「コミュニケーション。みんなの人間関係」
企業のトップとして、人を育てるためには何を重要視しているのかと聞くと
「人間関係。絶対それ。しょっちゅう話しこむ」
社員、一人ひとりとですか? と尋ねれば、
「うん。経営の話から遊びの話からすべて。本当に自分個人で悪いことしてることまで全部。昼の話も夜の話も」
日々会社を経営していて、トップは判断する時に誰にも相談できる人がいないので孤独だとよく聞く。そのことについて問いかけると、帰って来た答えもまたはっきりしていた。
「そんなことない、もう決めてるもん、方向性全部。迷えへん。全然迷わない」
創業者としては、事業承継についてはどう考えているのだろうか。
「それね、もう仕事できひん奴でええから、遊び心のある奴で、ちゃんとこうという判断できる奴ですわ。難しいけど、どんな奴やいうたら難しい」
自らの子どもたちに会社を継がせることは考えていないのだろうか。
「息子とか娘がおりますけど。それは全然関係ない。(選択肢の中には)全然入ってない。いや、息子である必要もないし、娘である必要もないし、やっぱり、この人とやったら一緒に仕事をしたいなというような人に譲るだけ」
もう頭の中で、候補者は何人かいるのですか? と聞くと、木村社長は「うん」と答えて頷く。今後の事業展開について聞くと、いま力を入れているのは産婦人科病院との連携だという。
「今ね、日本の売り上げが悪いですよ。原因どこやろうと考えた時に、今まで百貨店に頼り過ぎてた。だからそうじゃなくて、もっと産婦人科さんと近寄ろうと。今、40医院以上とコラボしてるんですよ。
『オギャー』と生まれた子が4万人以上、(病院からプレゼントされた5万円分ぐらいの)ミキハウスの肌着を着て退院して行くから、そこからお客さん生まれて来ると。富裕層が行く分娩費100万円以上のところだけやってるんですよ。
こういうことせんと、新しいお客さん生まれへんもん。その赤ちゃんのために、いろんな買うてきたやつを洗濯して比べたら『いやー全然ちゃうわ、ええわ』と思ったら、みんな買いに来てくれはる」
今後の会社経営の目標について聞くとこう返ってきた。
「売上げより、うちで働いてる人がキーエンスより有利な条件で働くいうのが僕の夢。『ええ会社やなあ、ええとこ入れたなあ』と言われるようにしようと思ったら、お金が付いてこな。そして、日本から世界中にいろいろ発信しようと頑張ってる。
せやからアパレルで日本で作って世界でってなかなかないんですよ。子供服屋がそんな百店舗も海外にお店持ってるのはないし」
最後に若い人たちへのメッセージを聞いた。
「僕は、考え方をね、日本人やったら日本の文化みたいなものを押さえられていない気がしてしゃあないから。やっぱり地球規模でモノを見んと、なんかちょっと問題かなと。
もっと大きく、ポジティブに見ないとアカンと思うわ。わりかしネガティブなものを拾いあげるから、ちょっとそれはもう蓋して、明るい未来に対して考えなアカンと」
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日本のリーダーの素顔や、普段は語らない裏話を取材するこの連載。<『クラシエ』の社長が赤裸々に語る、旧カネボウで見た「破綻の瞬間」…直前まで何も知らされていなかった>では、2004年に経営破綻の際に何が起こっていたのかを語っています。
最終更新日:2/27(月)15:33 現代ビジネス