ドライバー軽んじる荷主 物流現場

「代わりなんていくらもいませんよ、協力会社がなければやっていけません」

特殊輸送サービスに頼るアミューズメント関連企業役員の話、物流業界やトラック輸送と言っても多岐にわたる。一般にはなじみがないかもしれないが、この「特殊輸送」と呼ばれるジャンルも物流であり、私たちの日常の「当たり前」を支えている。



「遊技台の輸送は本当に厳しいのです。当たり前に遊んでるパチンコも、正しく製造された検定機や認定機をその製造、検定のままホールに運んでもらわなければなりません。輸送アクシデントが起きたら、その心配があるような輸送会社を使っては大変なことになります。代わりなんていくらもいません」

 実に興味深い話だ。なるほど、法的な試験を通さなければ遊技台はホール(パチンコ店)に置けない。パチンコ業界の詳しい話は本旨でないため割愛するが、つまり大量の遊技台を設置するにも特殊輸送で運ばなければならない。搬入、輸送、搬出の段階で検定から逸脱する遊技台になってしまったら大変なことになる。それは事故かもしれないし、悪意のある者かもしれない。

「そうです。信用が第一です。協力会社はもちろん、ドライバーのみなさんも信用してお願いしています。物流業界と大きく捉えると「代わりなんていくらもいる」という荷主はいるのでしょうが、実際は本当に支えてもらっている。「代わりはいくらでもいる」どころか、うちみたいに「あなたがたでなければ運べません、よろしくお願いします」という荷主もいるのですよ」

そして2024年問題、いやそれ以前からドライバー不足は深刻だ。元大手企業のベテランドライバーに話を伺う。

「部材輸送なんて万年人手不足です。公道にしろ構内にしろ、例えば航空機の主翼とか誰でも運べるものではありません。ロケットの部品だってそう。経験はもちろん、素質もいる。ドライバーのなかには「こいつは超能力者か」という熟練もいる。いや、本来プロのドライバーって特殊輸送だろうと宅配だろうとそういうものですよ。1日100個とか200個とかを毎日、時間指定やら不在やらの中で配達する。これも「あんたたち、やってみなはれ」ですよ」

 ここではわかりやすく特殊輸送のなかでもさらに特殊な超大型貨物輸送の話をしてもらったが、2022年の韓国における物流ストライキでは荷主の大手自動車メーカーが営業から事務まで社員総出で完成車を工場から港に運ぶもギブアップ、労働条件の改善に応じることとなった。まさに

「あんたたち、やってみなはれ」

の結果である。確かに自動車を運ぶキャリアカーの運転技術はすごい。完成車そのものを運転するプロドライバーもまたすごい、神経も使うし自動車運搬船の積み付けドライバー(ギャング)の技術など神業だ。

 また鉄道車両の陸送もそうだろうか。筆者は実際に取材したことがあるが、カーブなど極めてゆっくり、かつ複数の誘導員や補助員がつくとはいえ「ドライバーは超能力者か」と思わされる。まるでいにしえの巨大兵器か壮大な神の儀式か、である。

 いや、普段から石油タンクローリー(筆者は子どものころから大好き、特にシェルと出光)を見ていても、狭い都市部に無理やり作ったようなガソリンスタンドにあり得ない角度からきっちり入り、きっちり出てゆく姿を見るにつけ「代わりなんていくらもいない」と思わされる。

「まあわかりやすく話しただけで、大型の特殊部材輸送なんて日本を代表する大企業が直でやってたりするから下請けうんぬんの話ばかりじゃありませんが、人手不足となるとその大企業だって話は別です。特に高卒が欲しい。仕事で運転するなら、まして特殊な輸送なら若いうちに覚えてもらいたい。でも今は高卒自体が少ないし、優秀な高卒の多くは公務員になるか大学に上がってしまう。だから就職希望で高卒は奪い合いです。工場も店舗も欲しがりますからね」

あくまで業種や企業にもよりけりだろうが、高卒人材は少子化と進学率の増加もあって「令和の金の卵」になっている。特に現場仕事ではどこも「高卒が欲しい」だ。いや「とにかく若者が欲しい」という担当者もいる。中堅企業の採用担当者はこう話す。

「10代、20代ならいくらでも鍛えられますから。現場仕事は若いころから現場の肌感をつかんでもらうのが大事なんですよ。みなそうやって「プロ」になる。いろんな業界で「プロ」として活躍するみなさんもそうだったでしょう。ドライバーはもちろん、自動車整備士だってフォークリフトのオペレーターだって長年やってるプロは違う。ただ、業種にもよるのでしょうが、50代でも遅くない、いや60代からでも大丈夫、なんて仕事の内容は替えがきく仕事になりがちだと思うのです」

 あくまで彼の意見でしかないが、言いたいことはわかる。シンプルに「現場経験の長い人の代わりはいくらもいない」「そうでない人は替えがきく」

ということだろう。それでもプロである限り、本来プロの仕事とは

「代わりなんていくらもいない」
「あなたがたでなければ」

のはずだ。それなのに労働者とひとまとめに「代わりなんていくらもいる」がのさばる国になってしまった。

「理想論はもっともですが「代わりなんていくらもいる」と言われる仕事は、例えば宅配ドライバー、特に選択肢の少ない昨日今日始めたような高齢ドライバーに多いのです。安くても理不尽な目にあっても働きますから。現実ですよ」

年齢を含め、この国の内閣や有力国会議員、あるいは経団連幹部と同じような問題だが、もちろん高齢だからこその熟練技術を駆使する大ベテランもいるので一概には言えない。それでも「代わりなんていくらもいる」という誤った感覚をブラッシュアップできない議員や企業オーナーには「ご退場」願うしかないのだろう。

 しかし権力者やオーナーである彼らを退場させられないという現実もある。

「彼らに迎合する人々」

もいる。その現実があるからこそ、先の調査「価格交渉促進月間フォローアップ調査」は散々な結果となった。荷主も運送業者も、現場は苦しい。

 本当は実際の現場に、代わりなんていくらもいない。いまのところ「代わりなんていくらもいる」になっているとされる中小零細の宅配業すら、定年後に働き始めた団塊世代やその前後の世代(おおよそ65歳から80歳)のおかげでなんとかなっているだけで、彼らの年齢を考えれば「代わりなんていくらもいない」になるのは時間の問題だ。

 そのツケはそっくりそのまま、この先の

「日本社会と現役世代の負担」

となる。だからこそ現役世代が「代わりなんていくらもいない」「あなたがたでなければ」といった本当の現場の実態が反映されるような世の中を、制度面も含め(これは政治の問題でもある)社会全体で作っていくべきだ。ごく一部の残念な「逃げ切り」に付き合って「代わりはいくらでもいる」と迎合したのなら、日本の物流も含めた現場は本当に終わりかねない。

 現場が終わるということは、私たちの生活も終わりかねない、ということだ。

最終更新日:2/19(日)21:51 Merkmal

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6454375

その他の新着トピック