―[ヒット商品&サービス「はじまりの物語」]―
何事にも始まりはある。そしてそこには、想像もつかない状況や苦労も。例えば「スーパー銭湯」。今では全国各地に当たり前のように存在する施設だが、スーパー銭湯という言葉の発祥である温浴施設は、現在8店舗を展開する「竜泉寺の湯」(愛知県)。その誕生にはどんな裏側があったのか、同施設を運営するオークランド観光開発株式会社の、副社長である松永哲明氏と専務の松永尚忠氏に話を聞いた。
先代社長の情熱を注ぎ込んで開業した日本初のスーパー銭湯「竜泉寺の湯」だが、オープン当時は苦労も多かったという。
「建設には約5億円かけました。多くの方にサウナを体験してもらうためにも、50人が入れる当時で日本最大級の超巨大なサウナ室も作りました。しかし最初の数年は思う様に客足が伸びず…。社内でも『大きい箱を作りすぎたのかなぁ』なんて会話もありましたね」(松永副社長)
銭湯は元来、自宅に風呂のない人が利用する施設だった。それが、高度経済成長とともに、自宅の風呂が当たり前になってきたことで、風呂に入りに行くという文化がほとんどなくなっていたことも影響していたと、松永副社長は分析。苦節の期間も長かったと話す。
「当時はSNSもないので口コミの広がりにも時間が掛かり、開業後2~3年は採算が取れず大変な時期が続きました。それでも、いいものを作った自信はあったので、いつかは来ていただけるようになるとは信じていたんですが、やはり不安はありましたね」
その後、こちらも全国に先駆けて導入した「岩盤浴」によって女性客が増えたという。聞くほどに、温浴施設のあらゆるサービスのパイオニアであることがわかる。そんな同施設にもコロナ禍の影響は大きな影を落とした。
「コロナで売り上げは大きく落ち込みました。特にお年寄りと女性客が激減しました。また、家族連れも一気に減りましたね。コロナが広がり始めた頃は、感染すると差別を受けるような時期もありましたので、学校でクラスターを起こさせないように、家族連れのお客様もいなくなりました」(松永副社長)
当初は、誰もが一過性のものと見込んでいたコロナ禍。それが長引くに従って、回復は見込めないんじゃないかという不安も蔓延していたと同氏。しかし、それを救ったものがあった。
「危機を救ってくれたのが今のサウナブームです。今まで、温浴施設にあまり来られなかったような特に若い男性客が来ていただけるようになりました。30年前に『サウナを広めたい』と思って始めたスーパー銭湯ですが、それが30年経って、サウナに救われるというのは感慨深いものがありますね」(松永副社長)
今後について話を振ると「ブームと言っても、まだまだサウナや高濃度炭酸泉に入ったことのない方はたくさんいると思います。魅力的なサウナとお風呂で、未体験の方にも来ていただき近場で非日常体験を味わってもらえたらと思います。」と松永専務。筆者は、スーパー銭湯が”もっとも身近なレジャー”だと思う。その歴史を知って入るサウナと風呂は、また一味違って感じるかもしれない。
<取材・文/Mr.tsubaking>
―[ヒット商品&サービス「はじまりの物語」]―
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
最終更新日:2/5(日)17:39 週刊SPA!