おにぎり専門店「握らない」秘訣

超人気おにぎり専門店「ぼんご」。その代表である右近由美子さん(70)がおにぎり作りに携わるようになったきっかけは先代、右近佑さんとの結婚だった。由美子さんが歩んできた「ぼんご」の46年と、人気の秘密に迫る。

そして、由美子さんも「ぼんご」で働き始めることに。結婚当初は洗い場の手伝いをしていたが、雇っていた従業員が辞めてしまい、おにぎりを握ることになった。

「主人に明日から『お前がやれ』と、経験もないのに言われ……(笑)。最初は大変でした。握れないんですよ。でも握るしかない。ただ、お客さんはみんな常連さんですから、愛のある眼差しで私を育ててくれました。お客さんから『代わりに握ってあげようか』なんて言われたことも」

当時、具材が20種類程度だったとはいえ、慣れないおにぎり作りに悪戦苦闘が続く。さらに、女将を苦しめたのは味噌汁だった。「ぼんご」では修行に来た人が、最初に作るメニューが味噌汁なのだという。なぜか。

「1番難しいからです。おにぎりはある程度具材さえ固定してしまえば、握り方の問題。でも味噌汁は温度も日によるし、出汁を取るにしても、同じ味を出すのが難しい。同じ人が作っても、出汁を25分取るか30分取るか。または火が強いか弱いか、水が冷たいかぬるいかでまったく違う味噌汁ができる。

調理って生き物なんです。私はレシピをすべて公開していますが、レシピ通り作っても同じものなんてできませんから秘密にする必要がない(笑)」

女将はそう笑い飛ばすと、「ぼんご」のおにぎりが大きい理由について明かしてくれた。

「前はもっと小さなおにぎりでした。ある時、お腹を空かせているのに味噌汁を飲まないサラリーマンのお客さんがいて『なんで味噌汁飲まないの?』と聞いたら、『給料前に味噌汁100円なら、おにぎりもう1個食べた方がいい』と。なら、ちょっと大きくしてあげようと思って、ご飯だけで150gは入れるようになりました」

お客の気持ちを第一に考える由美子さんだったからこそ、「ぼんご」名物の大きなおにぎりは誕生したのである。そんな「ぼんご」のおにぎりだが、由美子さんは「最初はこだわりなんてなかった」と吐露する。

「お客さんに『時間が経って食べたら(米が)硬かったよ』とかいろんなことを言われることもありましたが、とにかくおにぎりを握ることで精一杯で……。10年くらい働き始めてやっと余裕が出てきたので、考えを改めて『お米をどうしたらいい?』『海苔はどうしよう』と細かいところを意識するようになりました」

明るく前向きにおにぎりと向き合う女将にも、最大の試練が訪れる。

「私が『ぼんご』を46年やってきた中で、一番辛かった出来事は主人が病気で倒れたこと。それを機に私が社長を務めるようになりました」

当時の由美子さんの年齢は50歳。社長として店の全てを取りしきり「ぼんご」の魂を引き継ぐも、その10年後、夫の佑さんは還暦を迎える10日前に亡くなってしまう。だが、葬儀の日も従業員たちはお店の営業を続けた。

「すべては来てくださるお客様のためです。それでも主人が亡くなって2年間くらいは店をたたむかどうか悩みました。その時期が一番辛かったですね」

ご主人が亡くなって、女将の心境にも変化が出てきた。先代が亡くなってから、「お金のための仕事はやめよう」と思い立ったという。

「それまでは扶養家族も従業員もいるから稼がなきゃと思って365日お店に行ってがんばって働いてきました。でも、主人が亡くなってからは私自身どっちに行っていいかわからなくなって。そんなときに知り合いから『これから新しいことを始めるよりも、今までやってきたことを土台にして考えていった方がいいんじゃないの?』と言われてハッとして。ガムシャラに働くよりもオンとオフをちゃんと作って働いていこうと」

「やっぱり私にはおにぎりが一番」と確信した由美子さんは、次の目標に「後継者を育てる」ことを掲げた。

「弟子というわけじゃないですが、おにぎりを握りたい人の背中を後押ししてあげたいと思ったんです。それも楽しい食事の場面を作れる人たちがいいですね」

女将の店で修業をした職人の中には、独立して店を構えた人もいる。東京・板橋には「ぼんご」の名前を受け継ぐ店舗があるが、これは先代の甥が開店したものだ。

「親戚筋ですけど、彼は一生懸命。もともと、おにぎり屋をやりたくてうちに5年いたので。技術も5年学んでいます。営業のやり方はうちとは全然違いますが」

おにぎりといえば、家庭でも簡単に作れる日本のソウルフードだが、よりおいしく握る方法はあるのだろうか。

「おにぎりのポイントはやっぱり握り方。いえ、もう握らなくていいんです。なんでおにぎりって名前があるのだろうって突っ込まれるぐらい、握らない方がいい。それじゃほどけるじゃないかと思われるのでしょう? そのための海苔。海苔って包装紙なんですよ」

ポイントは握らないこと。そして包装するように海苔を巻く。それによって、自宅でも簡単に“ふわふわエアリー”なおにぎりを握ることができるのだ。

最終更新日:2/5(日)10:01 集英社オンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6452880

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