55年の進化 ガチャガチャの今

硬貨を入れてレバーをぐるり。「ガチャガチャ」が幅広い世代にブームだ。専門店も増え、市場規模は400億円に。子どもも大人も引きつける魅力とは。日本有数のコレクターに聞く。AERA2021年1月11日号の記事を紹介する。

「何が出てくるかわからないワクワク、ドキドキがガチャガチャの魅力です。それが50年以上、人々を引きつけてきた理由でしょう」(ワッキーさん)

 今回、ワッキーさんのコレクションを並べ年表を作ると、ガチャガチャの歩んだ時代と進化が映し出された。創生期の60年代、子どもたちの人気を呼んだのは、アゴを動かすと目玉が飛び出す「ガイコツ」だ。1回10円だったが、「ガイコツ欲しさに3千円も使った子どもがいる」と、アサヒグラフ66年1月28日号が当時の過熱ぶりを伝えている。

 70年代後半、大手メーカーのバンダイとコスモスが参入する。ワッキーさんがガチャガチャを始めたのはこのころだ。スーパーカーやウルトラシリーズなどテレビの人気キャラクターが商品化され、「なめ猫」や6面立体パズルなどの流行モノも次々と景品になった。

 そして83年、累計で1億8千万個を売ったバンダイの「キン肉マン消しゴム」が登場し、第1次ブームを引き起こす。

「お店の人がいくら補充しても、販売機がすぐ空になるほどの凄まじさでした。ガチャガチャが、一般化するのを肌で感じました」(ワッキーさん)

■「悪かろう」からの進化

 多くの子どもは、思春期にさしかかるとガチャガチャから卒業したが、ワッキーさんの収集は今なお続いている。それほどまでに魅了された理由は何か。

「昔のガチャガチャは当たりが出ても、粗悪品やいい加減なものが多かった。カプセルから出しても曲がったままのものなどもあって、お風呂の湯で伸ばしたりしました。ダメな子ほどかわいいと言いますが、ツッコミどころ満載なところが愛着となりました」(ワッキーさん)

 流行をたちどころに商品化する、カプセルトイビジネスは良くも悪くも「何でもあり」の世界だった。80年代半ば、ロッテのビックリマンチョコのおまけシールが人気を呼ぶと、「ロッテ」を「ロッチ」と書き換えたニセシールが大量に出回る。ロッテが訴訟を起こすと、メーカーは敗訴。次第に著作権管理も徹底されていく。

94年、第2次ブームの引き金となったのは、バンダイが発売した「HGシリーズ ウルトラマン」だ。長年カプセルトイビジネスに携わり、日本ガチャガチャ協会を立ち上げた小野尾勝彦さん(55)は言う。

「それまでガチャガチャのフィギュアは単色だったのが彩色され、レベルも高くなった。ディズニーも加わり、大人も巻き込む第2次ブームが起きました」

「開運!なんでも鑑定団」の放送が始まり、大人のカプセルトイコレクターも出始めた。

■「フチ子」が火を付けた

 さらに販売機の進歩も市場拡大を後押しした。95年、ユージン(現タカラトミーアーツ)が上下2台一体型の「スリムボーイ」を発売する。

「当時100円機と200円機はバラバラでしたが、スリムボーイはどちらにも対応できる仕様になっていました。商品補充や集金の手間も簡便にしたため、手軽に売り場におけるようになり販路が拡大しました」(小野尾さん)

 販売機は電源がいらないため、置くだけで売り場ができる。大人のブームを受け、ヴィレッジヴァンガードなどのサブカルショップが設置。その後、ファストフード店やファミレスなどにも広がっていく。

 日本ガチャガチャ協会の調べでは、カプセルトイの市場規模は19年が380億~400億円。毎月約300シリーズが登場する。メーカーは約30社あるが、シェアの約8割をバンダイ、タカラトミーアーツの大手2社が占め、残り2割は中小のメーカーがしのぎを削る。

 今に続く第3次ブームに火を付けたのは、従来のガチャガチャのコア購入者でない女性たちだった。12年、キタンクラブがマンガ家のタナカカツキさんとコラボした「コップのフチ子」がヒット。SNSを通じて広がり、これまでに累計5千万個以上を売り上げた。キタンクラブを主宰する古屋大貴さん(45)は語る。

「立体のサンプルをおこした瞬間、『これは売れる』と確信しました。いいものは説明がいらない。コップのふちに座るという発想も斬新でした」

以後、クリエーターと組んだ、デザイン性の高い商品が続々登場する。17年には大人の女性をターゲットにし、売り場にデザイン性を取り込んだ専門店も現れる。冒頭の「ガチャガチャの森」だ。コロナ禍中も出店ラッシュの勢いは止まらず、「第4次ブームの兆し」と見る人もいる。運営する、ルルアークのゼネラルマネジャー・松井一平さん(46)は言う。

「女性の購買ニーズが高いことは、データからわかっていました。しかし、これまで女性の入りやすい店がなかったのです」

■モノ消費からコト消費

 豊富な品揃えは女性だけでなく、従来のガチャガチャファンたちも引きつける。客層の厚みが来店客数を増やし、多様な商品展開も可能にした。

「ガチャガチャの森」に足を一歩踏み入れると、人気キャラクターのカプセルがあれば、生き物や生活用品を精巧に再現したものもある。かと思えば、池のゴミ、「壊して遊ぶ壺。ただし元には戻せません」など、思わず笑いがこみあげるものも。松井さんは言う。

「私たちはガチャガチャをカプセルトイと言いません。コンテンツだと思っています。コロナ禍でもなぜそんなに勢いがあるのですか?とよく聞かれますが、ガチャガチャはモノ消費でなく体験を楽しむコト消費だからです。コロナでコト消費が制限されるなか、安心して手軽に楽しめる場として支持されているのだと思います」

「モノ」から老若男女が楽しむ「カルチャー」へ、ガチャガチャは半世紀を経て進化した。多様な遊び心が、閉塞感漂う日常に小さな風穴を開ける。快進撃の理由はそこにある。(編集部・石田かおる)

※AERA 2021年1月11日号

最終更新日:1/9(土)17:00 AERA dot.

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6381744

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