“景気を映す鏡”と言われるタクシー業界。東京商工リサーチ(TSR)の調査では2022年に倒産したタクシー事業者(ハイヤー含む)は過去10年間で最多を記録した。
全国ハイヤー・タクシー連合会(全タク連)によると、2022年12月の会員の営業収入は全国平均でコロナ禍前の2019年に比べ18%減少した。まだコロナ禍の影響が色濃く残る。それでも、行動制限の解除やインバウンド需要の復調で、回復ピッチは早まっている。
大手タクシー会社がけん引する配車アプリの普及も、より手軽な交通手段にしている。だが、コロナ禍で多くのドライバーが業界を去り、人手不足は深刻だ。
配車アプリの浸透で、タクシー利用も手軽になった。高齢者は電話予約が多いが、若年・中年層ではアプリ予約が広がっているようだ。
大手タクシー会社の日本交通(株)(TSR企業コード:291142885)によると、2022年の予約のうち、アプリ経由が8割以上に達した。
予約したタクシーの運転経路がリアルタイムで把握できる事も安心に繋がる。車種が選択しやすくなったことも満足感を高める要素の一つだ。「身体が不自由な人からスライドドアや車いすに対応した車種が選ばれる。感染症対策で空気清浄機を備えた車両の予約も多い」(業界関係者)。
また、電子決済も浸透してきた。全タク連の「決済用端末機導入状況」によると、2022年3月末でキャッシュレス決済対応車両は非対応車両の約10倍にあたる13万3,432台だった。調査に回答した車両では、キャッシュレス対応率は90.8%、クレジットカード導入率は80.3%を占める。
日本交通の都内タクシーでは、キャッシュレス利用率が約7割にのぼる。衛生的に現金支払いを避ける人も増え、なかには「小銭やおつりの受取を拒む人もいる」(業界関係者)という。コロナ禍の感染防止対策は、金銭受け渡しにも影響しているようだ。
毎年多くの新卒者を採用する日本交通は、2022年4月に新たな部署を新設し、「HRM」(Human Resource Management)プロジェクトを推進する。退職抑制と同時に中長期的にタクシー業界で活躍できる人材の育成を図る。
東京23区や武蔵野・三鷹地区が中心の葵交通(株)(TSR企業コード:295054298)は、経験豊富な乗務員がマンツーマンで指導するほか、研修制度も充実させている。また、未経験者には、乗務開始後の6カ月間は30万円の最低給与を保障し、その後の給料取り分は約6割に設定。ドライバーが将来を描ける環境作りを手助けしている。
タクシーは、労働集約型産業で人員の確保なしでは成り立たない。一方、配車アプリの普及は利便性と同時に、多様な利用者ニーズに応えるきめ細かい体制の整備も求められる。
タクシー業界は、労働集約型から様々な効率型産業への転換期を迎えている。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年2月3日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)
最終更新日:2/4(土)16:49 東京商工リサーチ