〈弁護士に聞いた〉“カジュアル化”する退職代行のリアル「転職活動に集中したい」「自分で言いづらい」と利用する人も… から続く
「退職代行」は、その名のとおり本人に代わって退職の手続きを代行するサービスだ。最近ではメディアにも取り上げられることが増え、その名前を耳にしたことがある人も多いかもしれない。しかし同時に、会社とのトラブルを不安視されたり、「違法ではないか?」と批判されたりすることもある。
ここでは、退職代行を専門とする弁護士で、漫画『さよならブラック企業 働く人の最後の砦「退職代行」』(少年画報社)の監修を担当した竹内瑞穂さんに、実際にあった退職代行でのトラブル事例や、SNSなどでよく見かける「退職代行の利用は甘え」という声への思いを聞いた。(全2回の2回目/ 1回目 から続く)
◆◆◆
もちろん、決心がつかないまま弁護士に相談していただいても構いません。ただ、最後に退職をするという決断をするのはご自身です。ご自身の中で種々の問題があっても、「辞めることだけは譲れない」と結論が出たら、「退職手続きを進めていきましょう。その際は、全力でサポートいたします」と依頼者には伝えています。
――そうなると、退職時のトラブルとしてよく耳にする「退職の意思を伝えたら、会社から『訴えてやる』と脅された」という話も実際には起きないのですか?
竹内 退職する社員に損害賠償金の支払いが命じられたケースはこれまでにほとんどありませんし、今後もほぼ起こらないと思っています。ただ、会社が訴訟を起こして金銭を請求することと、それが裁判で認められることは別の問題ですから、会社が従業員に対して「金銭を支払え」と訴訟をすることは誰も止められません。
とはいえ、会社が「訴えてやる」と言っていたとしても、おそらく実際には訴えないことが多いと思います。退職を理由に訴えたところで、会社側にとって苦しい戦いになる可能性が高いですから。
ごく稀に、それでも従業員相手に訴訟を起こす会社はあります。あくまで「稀なケース」ですけど。それよりも、自宅に押しかけられるトラブルのほうが多いかもしれません。
――従業員の自宅に、会社の人が押しかけるということですか?
竹内 そうです。退職の意思を伝えたら、何度も電話してくるとか、それを無視していたら自宅に押しかけてくるとか。
従業員と経営者の繋がりが強い会社ほどこういったトラブルになりやすい傾向があると思いますし、依頼者にも事前にその可能性をお伝えしています。特に依頼者がひとり暮らしや社員寮に住んでいる場合、実家に帰るか、しばらくホテルに泊まるかして自宅に近づかないようアドバイスすることもありますね。
電話に出ない、自宅にもいないとなると、会社は依頼者とコミュニケーションの取りようがないので、最終的に弁護士を窓口にしてくださることがほとんどです。会社が従業員に直接連絡を取っている間も、弁護士から異議申し入れをするなどの退職手続きを進めています。
竹内 別に甘えじゃないですよ。もし甘えだとしても、「甘えて何が悪いの?」と思いますね。弁護士は、代理人として依頼者の代わりに退職を進めます。この代理人という立場は、本人がやれることを本人に代わって行うことができると法的に認められているものです。その趣旨に従って代行手続きをしているだけなので、何の問題もありません。
それに退職代行が甘えかどうかは、個人的にはどっちの意見があってもいいと思うんですよね。それよりも、退職代行が浸透してきている現実を、企業側がどう受け止めているかのほうが大事ではないでしょうか。「なんで退職代行を使わないと辞められない人がいるのか」を考えることのほうが重要です。
最終更新日:1/28(土)14:42 文春オンライン