妊婦に人気の靴 どこが画期的?

妊婦や子育て中の人に便利だと評判になっているスニーカーがある。NIKEの「ゴー フライイーズ」だ。もともとこのシューズは、障がい者や子ども、妊婦など、誰もが履きやすい形を目指したという。一体何がすぐれているのか。さらに、世の中には何かしらのハンディを持つ人を想定して作った商品が、意外なヒットを記録した事例もある。これらもあわせて紹介したい。(取材・文/有井太郎)



● NIKE「ゴー フライイーズ」 なぜ妊婦や子育て中の人に人気?

 妊婦や子育て中の人にとって悩ましい動作が「靴の脱ぎ履き」だ。なぜなら、妊婦の人は体をかがめるのが苦しく、また子育て中の人は、子どもを抱いたり荷物を持ったりと、両手が塞がっているケースが多い。そのため、靴を脱いだり履いたりするのは労力をともなう。

 こういった人は手を使わずに靴を脱ぎ履きすることが多くなるため、「靴のかかと部分がつぶれてしまった」なんて声も耳にする。暖かい季節なら着脱の簡単なスリッポンなどもあるが、厳寒期はそうもいかない。

 そんな中、妊婦や子育て中の人にウケているのがNIKEのスニーカー「ゴー フライイーズ」だ。

 SNS上には、このスニーカーを評価する妊婦・子育て層の声が多数ある。「手を使わずに履けるから助かる」「妊婦におすすめってツイート見て買ったら本当に脱ぎ履きがすごいラク」といったコメントをすぐに見つけることができる。

 そのほか、妊娠・子育てを終えた人からも「当時この靴を知っていたら、絶対に買っていたな」とうらやむ声が聞かれるほどだ。

 一体、このシューズの何が画期的なのか、どういう技術なのか、取材した。

● 足腰の弱い高齢の両親に このシューズを贈ろうとする人も

 NIKEは「フライイーズ」というシリーズを出しており、障がいを持つ人の声をもとに開発したテクノロジーが搭載されているという。「ゴー フライイーズ」もそのシリーズの一つ。公式サイトには、障がいのある人から子どもや荷物で両手を塞がれた母親まで、さまざまな利用者のライフスタイルに対応することを目標にしていると書かれている。

 たしかに、このシューズは妊婦や子育て中の人に限らず、さまざまな人の不便を解消するものだろう。実際、SNSにもこんな意見があふれている。

「脚が悪い母さんにNIKEのゴー フライイーズを買った」
「腰椎圧迫骨折でしゃがめなくなった母に、お年玉としてNIKEのゴー フライイーズをプレゼント。立ったまま、靴べらなしで着脱できるのでお気に召した模様」
「おばあちゃんの誕生日にプレゼントした。スニーカーも進化しているんだね」

 妊婦や子育て中の人にウケているのは、手を使わず簡単に着脱できる点。その特徴は高齢者や足腰の弱った人など、さまざまなハンディや不得意にも届く機能といえる。

 言い方を変えれば、何かしらの障がいや不便を持つ人が喜ぶものは、その延長線上でいろいろな人のハンディや煩わしさをカバーするといえるだろう。

● 発達障がいの人の声から生まれた 人気のノート「mahora」

 この観点で見ると、世の中には特定の障がいを持つ人に向けて作ったもの、あるいは障がいを持つ人の声をもとに開発したものが、広くさまざまな人にヒットしたケースも少なくない。

 大阪にある大栗紙工が開発したノート「mahora(まほら)」も、その一つだ。

 この製品の開発は、発達障がいのある人が既存のノートにさまざまな不便を感じていると知ったところから始まったという。その不便とは「紙の反射がまぶしくて文字が書きにくい」「罫線以外の情報が気になって集中できない」などだ。

 そこで発達障がいの当事者にアンケートを行いながら、このノートが作られていった。

 mahoraの製品は大きく二つあり、一つはノートの用紙に太い線と細い線が5mm間隔で交互に入ったもの。書いている行の識別がしやすく、2行を使って大きく文字を書いたり、漢字にふりがなを書いたりするのにも便利だという。

 もう一つは、ノートの用紙に網掛けの帯が8.5mm間隔で入ったもの。罫線ではなく網掛けなので、行内に文字を収めて書くにも、行を気にせず絵や図を自由に描くにも便利だという。

 2020年2月から販売したmahoraは、2021年7月までに累計5万冊のヒットとなった。目にやさしい作りや使いやすさを理由に、発達障がいのある人だけでなくさまざまな人が購入している。

● 聴覚障がいを支援するグッズが 意外な場所で活用

 もう一つの事例は、聴覚障がいを持つ人への支援を想定して作られた腕時計型端末「シルウォッチ」のヒットだ。

 福祉機器の開発を行う東京信友の製品で、インターホンや火災報知器、子どもの鳴き声など、日常で気づかなければならない“音”が鳴ったとき、シルウォッチが振動して音の代わりに本人へ伝えてくれる。

 具体的なシステムとしては、マイクセンサーや専用ピンマイク、外付けの無線送信機を特定の場所につけて、シルウォッチと連動。その場所で音が鳴れば振動通知を行うように設定する。

 音の聞こえない人に向けて作ったこの製品だが、実はいろいろなところでニーズがあったようだ。たとえば工場などの生産現場は騒音が大きく、トラブルが起きても音による伝達が難しい。そこで製造機械とシルウォッチを連携させ、エラー発生時に振動で担当者に伝える利用法が出てきたという。

 そのほか、店舗や施設スタッフが音もなく緊急通知を受け取るシステムとしても活用されているという。図書館などの静かな場所ではトラブル時も静かに、場の空気を乱さず対応することが求められる。スマホで通知することも可能だが、腕時計型端末で素早く簡素に伝えるニーズもあるようだ。

 シルウォッチは個人仕様向けと企業向けの製品がある。マイクセンサーや無線送信機とのシステム連携はユーザー自身で行うのだが、そのユーザーの発想次第で誰もが広く使えるツールになっているのだ。

 こういった事例を見ていると、改めて何かしらのハンディを持った人に向けて作ったものは、その延長線上でいろいろな人の不便や弱点をカバーする可能性があるとわかる。

 ダイバーシティという言葉が出始めの頃によく聞かれたのは、ハンディがある人にとって暮らしやすい社会を作ることは、すべての人が暮らしやすい社会につながるという言葉だった。

 確かに、足腰の障がいがある人が歩きやすい道路は、高齢者や子ども、妊婦にとっても歩きやすい道路だ。また、視覚や聴覚の障がいを持つ人が見聞きしやすい情報は、誰にとっても見やすい情報といえる。

 実際、この記事で取り上げた事例を見ていると、何かしらの不便を解消するグッズは、それ以外のさまざまな人の不便も助け、広く世のためになると分かる。

 ハンディがある人にとって暮らしやすい社会を作ることは、すべての人が暮らしやすい社会につながる――。こういった言葉は、どうしても“きれいごと”として受け取ってしまうが、この記事で挙げた製品を見ると、その考えは確かに間違っていないと実感する。

最終更新日:1/27(金)15:46 ダイヤモンド・オンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6451954

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