ドラッグストア なぜ100m内に乱立

都市部でドラッグストアが乱立しています。新宿、渋谷、新大久保…至る所で目につくのが「100m以内に出店」しているケースです。この理由は、ドラッグストア各社が直面している裏事情にあります。さらに、近い将来ドラッグストアに「淘汰」される業界も見えてきました。(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)

● 東京の都市部でドラッグストアが 100m以内に乱立

 東京の都市部で暮らしていると気づくことの一つが、ドラッグストアがとにかく近い場所にたくさん出店していることです。私の場合、家を出て新大久保駅に着くまでの750mほどの通勤路の間にスギ薬局、ココカラファイン、龍生堂、マツモトキヨシと4チェーンの店舗が乱立しています。

 とくにドラッグストア業界の場合、ライバル店の近くに出店する傾向があるのが不思議です。距離を測ってみると、たとえば新宿では、ダイコクドラッグ西新宿一丁目店とマツモトキヨシ新宿南口店の間は85m、OSドラッグ新宿店とマツモトキヨシ新宿3丁目店は55mという具合。人間の歩くスピードは1分間に80mですから、わざわざライバル同士で近くに出店するのが業界の流行のようです。

 さらに、マツモトキヨシ新宿3丁目店とマツモトキヨシ新宿3丁目part2店の間は57mですし、渋谷のマツモトキヨシ渋谷part1とマツモトキヨシ渋谷part2店の間も59mですから、自社チェーンでも店舗が近接しています。

 「そもそもコンビニだって同じくらい近くにあるじゃないか」と思うかもしれません。でも、コンビニ最大手のセブン-イレブンの店舗数は全国で2万1350店であるのに対して、ドラッグストアチェーン最大手のウェルシアの店舗数は全国2752店と規模感が違います。にもかかわらず、ドラッグストアの近くにはドラッグストアがある。ここがこの業界の不思議なのです。

 なぜ、ドラッグストアはこんなに近い場所にたくさんあるのでしょうか? 今週はその秘密を三つのポイントから解明してみたいと思います。

● ドラッグストア業界は戦国時代! 「ドミナント戦略」で勢いをアピール

 最初の理由は、ドミナント戦略という経営用語にヒントがあります。ドミナント戦略とはチェーン店経営の鍵となる戦略で、とにかく一定の地域にたくさん出店してその地域を押さえるという戦略です。

 同じ地域にたくさん同じチェーン店があるメリットは、配送の手間が合理化できてコストを下げられるうえに、その地域に限っていえば知名度が上がり集客しやすくなります。

 例えば、中野駅の北口に出ると中野ブロードウェイに向かうアーケードの入り口にサンドラッグがあって、ブロードウェイの1階にもサンドラッグがあり、なぜか地下1階にもサンドラッグがあります。

 これだけ同じチェーンの店舗が密集していると近くにマツキヨやOSドラッグ、ミネドラッグがあっても、「サンドラッグが、一番勢いがあるのかな」と消費者は無意識に思ってしまうわけです。

 ドラッグストアチェーンの場合、業界全体は拡大傾向にあるのですが、業界のトップ10は規模的に拮抗していてかつ、それぞれ強みがある地盤が違います。たとえて言えば、戦国時代の戦国大名のようなものです。

 東京都心に地盤をもつウエルシアに対して、東側の千葉県松戸市から始まったマツモトキヨシがにらみをきかせ、西側の武蔵にはサンドラッグが、南の相模にはココカラファインが勢力拡大の機会をうかがいます。

 名古屋にはスギ薬局が、大阪ではダイコクドラッグが、北海道にはツルハドラッグがそれぞれ勢力を広げながら虎視眈々(こしたんたん)と全国制覇を狙っているような状況です。その結果、全国の群雄が集結する首都圏の都心部においては、ドラッグチェーン同士が近隣に出店して血みどろの戦いを仕掛ける状況が続いているのです。

 しかしなぜ、ドラッグストア業界は勢力拡大を狙うのでしょうか。これが2番目のポイントで、その理由は、一般の小売店よりも利益率が高いところに秘密があります。

● ドラッグストアは「もうかる」 小売店よりも利益率が高い

 企業としての売上高営業利益率を見ると、直近の決算で売上高が1兆円のウェルシアHDは利益率4.5%、売り上げ9200億円のツルハHDが4.4%、7300億円のマツキヨココカラ&カンパニーは5.7%の利益率をたたき出しています。

 一方で、日本最大の小売チェーンであるイオンは総合スーパーであるGMS部門の売り上げが2.4兆円であるにもかかわらず、営業利益は148億円もの赤字。セブン&アイ・ホールディングス(HD)のGMSであるイトーヨーカドーも、売上高1兆円規模であるにもかかわらず、営業利益率はわずか0.2%です。

 大手小売業がもうからない中で、ドラッグストア業態はなぜもうかるのでしょうか。実は、売り上げの柱が医薬品と化粧品だという点に秘密があります。

 ドラッグストアチェーンの売上高構成は医薬品、ビューティーケア、日用品、加工食品が4本柱になっていて、それぞれがだいたい同じ売り上げ規模を稼いでいます。言い換えると、利益率の高い医薬品と化粧品が売り上げ構成の半分を占めているのです。そのことが、業態全体としての利益率を高めています。

 しかしそれにしても、ドラッグストアチェーンはいつまで拡大を続けるつもりでしょうか。ここに、3番目の要素である「ドラッグストアが淘汰するある業界」が関係してくると私は考えています。

● 調剤薬局はジリ貧 ドラッグストア戦国時代はしばらく続く

 そのように考えると、大都市の大病院に併設された調剤薬局を除いて、調剤薬局はこの先、だんだんとジリ貧になっていくことが危惧されます。言い換えれば、調剤薬局併設のドラッグストアをこの先の10年でどこまで拡大させていけるかが、ドラッグストア戦国時代での勝ち残りのためのポイントになっていくのではないでしょうか。

 そのようなことからドラッグストアは今、近隣に店舗がどんどん乱立する状況になっています。そしてどのチェーンも「15%オフクーポン」といったお得なクーポンをスマホアプリで配り、ポイントを提供して消費者の囲い込みに躍起です。

 このようなお得な還元ができること自体、消費者に投資をする余地が大きいこと、言い換えれば投資をすればもうかることを意味します。

 振り返って考えれば、これは昭和の時代、ひとつの街に三つ大規模スーパーがあった時代と同じです。駅前にジャスコがあり、ダイエーがあり、西友があり、ニチイがあった時代。どのチェーンも勢力拡大に力を入れ、大型スーパーの店舗が乱立していたあの時代と同じことが今、ドラッグストアチェーンで起きているのです。

 そうだとしたらこの戦国時代、最後に勝ち残るのは全国制覇を遂げた2~3社に集約されるのかもしれません。それまでの間、100m以内にライバル店がひしめき合うドラッグストア戦国時代は当面続きそうです。

最終更新日:1/27(金)23:06 ダイヤモンド・オンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6451920

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