自宅に節税ビル 78歳抱く不安

まとまった不動産を保有する高齢男性。相続対策として、自宅を取り壊し、貸し店舗兼住宅のビルを建てる計画を立てましたが、そこにもコロナの影が。税理士の広田龍介さんの解説です。【毎日新聞経済プレミア】

 ◇不動産売るには忍びない

 駅から10分圏内の好立地に不動産を所有しているYさん(78)は相続対策を検討している。悩みの種は、不動産が保有財産の9割超を占めており、金融資産が少ないことだ。このままで、自分が亡くなれば、子供たちは納税資金が不足してしまう。

 不動産は親から相続したもので、商店街のメイン通りの周りにまとまった面積の貸地がある。将来の納税資金を捻出するために売却するという手もあるが、親からせっかく引き継いだ不動産を売るのは忍びない。一帯には再開発計画が持ち上がっており、その実現のため、ぜひ残しておきたいという思いもある。

 どうするか。そこで考えた相続対策が、自宅の土地の活用だ。

 自宅は、メイン通りから一本裏手にあり、周辺は古い木造建物の飲食店が軒を連ねている。Yさんも自宅周りの数棟の木造建物を飲食店に賃貸しているが、いずれも築40年超と老朽化している。昔ながらの良さが残っているといえば聞こえはいいが「取り残された地区」という見方もできる。

 ◇金融機関「返済計画に問題なし」

 そこで、自宅と周囲の木造建物を取り壊し、Yさん個人名義で店舗併用住宅の5階建てビルを建てるというプランを立てた。

 建設資金は、金融機関の融資を充てる。借入金のぶん相続財産評価額が減り、相続節税になる。ビルが完成すれば、毎月の賃貸収入が返済原資となる。これで相続対策は完了する。

 金融機関は「ビルの立地からみて、不動産投資利回りは高く、返済計画に問題はない」と太鼓判を押す。

 Yさんが亡くなって相続が開始した後はビルを法人化する。ビルを法人に売却した資金と、所有不動産のうちの駐車場を売った資金とが、相続税の納税資金になる見通しだ。それでも不足する場合は、ビル敷地の一部を法人に売却して完納すればいい。

 ビルを法人化すれば、その後の賃貸収入は法人所得となる。個人の所得税よりも法人税の税率が低いため、税負担は軽くなり、借入金の返済が有利になる。

 ◇「あと何年生きられるか」

 相続対策としては申し分ない。だが、Yさんは不安を感じている。

 今や世界は新型コロナウイルス一色だ。国内も第3波が到来し、先が見えない。そうしたなか、相続対策とはいえ、多額の借金を抱えてビルを建てても大丈夫なのだろうか。本当に賃貸収入が確保できるのだろうか。

 経験則もあてにはならない。バブル崩壊、リーマン・ショック、東日本大震災など過去の経済ショックでは株価が落ち込んだが、足元のコロナショックで実体経済は大打撃を受けているのに、株価が上昇するという不思議な現象が生じている。

 さらに、Yさんが気がかりなのは、このコロナ禍で、自分はあと何年生きられるかということだ。ビルが完成すれば、相続対策は完了するが、それを無事見届けられるのだろうか。今のところ健康に不安はないが、これも先のことはわからない。

 だが、子供たちのことを考えれば、相続対策は必要だ。元気な今のうちに行動を起こすしかない。Yさんはそう自分に言い聞かせている。

最終更新日:1/4(月)9:30 毎日新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6381220

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