突然の新型コロナウイルスの感染拡大で、飲食店は大きな打撃を受けている。お酒を飲みながら会話や交流を楽しむスナックや居酒屋では、来店客減に加え、飛沫(ひまつ)感染予防への対応策が必須となり、店側の負担が増加。感染防止と経営の間で苦悩しながらも、工夫を凝らして生き残る方法を模索している。
1960~70年代にかけて、繊維問屋街の夜の盛り場として栄えた岐阜市の中心地・柳ケ瀬。90年代以降は空き店舗が増えたが、周辺には今も多くの飲食店やスナックが軒を連ねる。
柳ケ瀬で35年間続くスナック「さんくす」の客席には、かつて常連客が肩を寄せ合って歌ったり、飲んだりしていたころの写真が飾られている。昨年2月以降、客数は前年の4割に落ち込み、最近は人が来ない日もある。
さんくすに来店した客は、従業員の男性(69)のギター伴奏でカラオケを楽しみながら飲むことができる。新型コロナの感染拡大後は、アクリル製のカーテンを引き、飛沫拡散を防いできた。感染者が出た場合にしっかり追跡できるように、やむなく「いちげんさんお断り」での営業にも踏み切った。店主の河村剛子さん(75)は「本当は新しい人にも来てほしい。店は私の生きがい。愛娘も私が元気に働いている方が安心してくれるから」。
弥八町のスナック「茶目」の店主、山内京子さん(54)は、政府が緊急事態宣言を出した4~5月の間、断腸の思いで20~40代の女性アルバイト3人を解雇した。その後、なんとか冬まで営業を続けてきたが、忘年会の予約が「第3波」の到来でキャンセルに。「店をやるのもやめるのも地獄。どちらにも進めないから続けているのかもしれない」
帝国データバンクによると、全国の飲食業の1月から11月末までの倒産件数は、過去最高の736件。飲食店の多くは夜間営業での収益を重視してきたため、行政による時短営業要請は店の利益率低下に直結する。菅義偉首相は11月下旬の感染症対策本部会議で「飲食店の営業時間短縮が極めて重要」と発言。愛知、岐阜両県では一部地域を除き12月18日から再び、酒類を提供する飲食店に午後9時までの時短を促した。
JR岐阜駅前の繁華街・玉宮では12月下旬、サラリーマンが街を素通りする姿が目立つようになった。生き残りを図ろうと、営業開始を早めた「昼飲み」に活路を見いだした居酒屋が出てきた。
焼き鳥店「縁屋」では12月26、29日に昼飲みを実施。「焼き鳥は10分かけて焼いて1本90円。お酒はつぐだけで450円」。テークアウトに活路を見いだす他店もあるが、鎌部勝昭店長(44)はあくまでも、店舗での営業にこだわりをみせる。
夕方から営業していた「大衆酒場 おくちゃん」でも昨年12月21日以降、開店時間を平日は午後2時、土日は正午に前倒しした。店長の高井正道さん(46)は「家事が一段落した30~40代の女性客の需要をつかめそう」と期待する。「お酒を飲みながら愚痴を言い合い、『明日からまた頑張ろう』と活力を養う場であってほしい」と日中の接客にも汗を流す。
◇「モーニング」終日どうぞ
コーヒー一杯の注文でトーストやゆで卵、サラダなどが付いてくる――。コロナ禍は、東海地方に根付く喫茶店の「モーニング文化」にも変化をもたらした。岐阜市野一色の「喫茶ゆるりん」では5月上旬から、午前7時~11時半のモーニングサービスの提供を終日に改めた。店外には「一日モーニング」と記された旗がなびく。
客が朝の時間帯に集中するのを防ぎ、「密」を避ける狙い。店主の伊藤竜也さん(56)は「以前は午前11時半に滑り込んで来る客がいたが、来店時間がばらけるようになった」。妻の絵理加さん(52)は「密を避けられて安心しているお客さんもいる。朝昼兼用で食べたい人や、午後からゆっくり話をしながら食べたい人の需要もあった」と話し、手応えを感じている。【熊谷佐和子】
最終更新日:1/4(月)12:18 毎日新聞