セルフレジ 監視に疲弊した元店員

2021年の万引き認知件数は8万6237件、検挙人数は5万369人(警察庁「令和3年の刑法犯に関する統計資料」調べ)。十年以上、減少傾向が続いているとはいうものの、いまも毎日、200件以上の万引き事件が発生している。近年ではセルフレジの導入もあり、その対応に店側の悩みは尽きない。俳人で著作家の日野百草氏が、連日、万引きに苛まれた元スーパーのセルフレジ案内係に、被害店舗の苦しみを聞いた。

困ったことに万引きする人たちは生活に困っているとか今日の食べ物すらないという人以上に、盗みがある種の趣味や病気になってしまっている人たちがいる。こうした人をクレプトマニアとも呼ぶが、万引きで7度も逮捕された元陸上選手など、薬物依存同様に根治が難しいとされる。

「どんな事情があろうと泥棒は泥棒ですからね。私の持ち場になったからには徹底的に(万引きを)見つけてやろうと思いました。案の定、未精算で通った高齢者がいたんで副店長に即知らせた上で声掛けしました。あとで聞くとずいぶん昔に出禁になった万引きの常習犯でしたが『セルフレジになったから来た』とか言ってました」

やがて彼の店舗のセルフレジは一部休止となり、サービスセンターから丸見えのセルフレジ数台のみ稼働するに至った。このセルフレジ導入、他の店員たちもかなりのダメージを負ったと話す。なにしろセルフレジの大規模導入で人員の補充をしなくなった上に、結局有人レジをフル回転させることになり、人手が足りないまま仕事が増えてしまったのだから。

「人手不足なのに人員削減して万引きが増えたら本末転倒ですよ。むしろ『セルフレジだからあそこは万引きしやすい』とか、悪質な地域系の匿名掲示板に書かれたりします。そんなサイトはたくさんあります。ネットで広まると泥棒が一気に集まるんですよ」

「やばい感覚になってくのが自分でもわかるんですよ。そういうのに向いてる人もいるんでしょうけど、今考えればただのスーパーの非正規に監視まで求めるのは酷だと思います」

 先にも書いたが、他人を監視するというのは本当に難しい仕事で、その道のプロである警察官や刑務官すら、ときに誤ることがある。

「もう精神的には開放されましたけど、駅のコンビニとか完全にセルフレジになっていて驚きました。私と同じような立場で一人だけ店員がいましたが、大変だなあと思います」

 かつては少額精算によるレジの効率化だったはずが、システムの高度化により人手不足の解消どころか人員削減を期待されることとなってしまったセルフレジ、人件費削減のつもりが店員の仕事が増え、万引き犯の餌食となって損害を出すことになるとは。もちろん、諸悪の根源は万引きというふざけた名称であまやかされ続けた窃盗犯だが。

「ほとんど厳重注意でおしまいです。また店に来ます。ずっと刑務所ってわけにもいかないんでしょうが、もう少し罰則を強めて欲しいです。うちの副店長のほうがよっぽど怖いし厳しいです。対応含め警察のほうが優しいなんて」

 そのほとんどは厳重注意か、そうでなくとも不起訴である。先の元陸上選手も7回逮捕されたにも関わらず執行猶予だった。2000年代のはじめ頃までは、若い時代のやんちゃ自慢として万引きどころか「集団強盗」(当時の番組内テロップに拠る)で店を潰したことを面白おかしく語る芸能人がいた。また、それを「ネタ」として平気で放送するテレビ局と制作スタッフがいた現実がある。なぜか店舗の万引きという窃盗にだけは甘かった日本。

「さっきも話しましたけど、再起のチャンスとか病気とか、店にとってはどうでもいい話なんですよ。1個盗まれたらその1個分を回収するためにどれだけの数を売らなければいけないか、日本は本当に万引きに甘いと思います。警察は被害の側なんてどうでもいいんですかね、それで病むオーナーや店長だっているのに」

 強い言葉となったが被害者の側としては当然だろう。現実問題として店舗の対応に限界がある以上、れっきとした窃盗罪なのだから警察の対応も厳しくすべきではないか。万引き犯ばかり甘やかされ、何も悪くないはずの店側や店員ばかりが対応を迫られ続ける。本当にかわいそうだ。

 セルフレジの普及とともに再び顕在化したこの問題、いかに盗まれないか、未チェックを防ぐかのレジシステムにおける技術面での進化はもちろん、日本人の「万引きという名の窃盗」に対する意識もアップデートしなければ解決も、セルフレジのよりいっそうの普及も難しいように思う。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。社会問題、社会倫理のルポルタージュを手掛ける。

最終更新日:11/28(月)12:45 NEWSポストセブン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6445954

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