【お詫びと訂正:2022年11月21日16時45分 エアークローゼット社の限界利益に関する表現に不足がございましたので、文章の加筆修正を行いました。お詫びして訂正いたします。】
ユーザーが定期的に料金を支払い、コンテンツやサービスを「所有」するのではなく「利用」するサブスクリプションサービス(サブスク)。矢野経済研究所の調査によると、サブスクの日本国内における市場規模は、2021年度に9615億円までのぼり、前年度比10.6%増で1兆円規模まで成長している。「Apple Music」「Spotify」「Amazonプライム」「Netflix」などを日常生活で利用している人は、コロナ禍の自宅生活をきっかけにかなり増えたのではないか。
今さら解説する必要もないが、この新たな消費行動は、購入によって所有するというこれまでの形から、毎月の定額会員費の引き落としと引き換えに、利用したいときにだけ好きなだけ利用するという形へ、という言葉で表現できる。サブスクによって提供されるばく大なサービス・コンテンツ量は魅力的で、多くの支持を集めている理由の一つでもあるだろう。
消費概念そのものを変えてしまったサブスクだが、映像や音楽といった領域だけでなく、昨今はファッションでも登場している。ファッション業界では、原料高や円安といった悪材料による商品の値上げが進む。そんな中、今回はファッションのサブスク普及の可能性について、7月に東証グロース市場への上場を果たしたエアークローゼットを基に考えてみたい。
ファッション自体、いつ・何処で着るというオケージョンや、都心や郊外といった居住ロケーションに個人の好みがついてくるもの。個人のこだわり度合も千差万別なことから、ユーザーが事前に細かく自分の好みなどを伝えないと、決して「お好みの洋服が安価に自動的に送られてくる」サービスは実現できない点は、企業にとってなかなか難しい問題だ。
セレクションへの信頼感を醸成するのも一つの手であり、airClosetではスタイリストからのアドバイスやセレクション・サービス機能もあるようだが、期待値のハードルを上げたことにより、送られてきた商品とのギャップによって、かえって満足度を毀損(きそん)してしまうことも考えられる。
では、ファッションのサブスクというビジネスは、本当にもうからないのだろうか。airClosetの18年~22年における新規獲得会員の年間平均成長率は37.9%と、ニーズがあることは間違いないといえそうだ。これは、同期間の売上高成長率(37.1%)と同規模である。新規獲得ができているうちに、いかに初期離脱者を減らし、サービスの継続を促せるかが、今後ビジネスを広げていくための鍵となってくるだろう。
そのためには、現在提供しているサービスのセグメントを細かくして、ニーズを絞り込んでしまうか(貸衣装のようなイメージに近い)。あるいは、価格帯を少々上げてでも、映像や音楽のサブスクのように、「選び放題・借り放題」にまで振り切ってしまうか。こうした両極案くらいでないと、なかなかファッションのサブスクビジネスは成り立たないのかもしれない。
この稿を走らせているうちに、エアークローゼットを巡る新たなニュースが飛び込んできた。住友商事との業務提携だ。住友商事は出資先にジュピターショップチャンネルが運営する「ショップチャンネル」がある。その顧客基盤の活用や国内外のネットワークを活用した提携ブランドの開拓など、さまざまな分野での事業開拓を進めるそうだ。
住友商事という盤石な資本を持った企業との業務提携によってairClosetも、より中長期的な事業計画が組みやすい環境になったのではないか。しかし、新たな事業領域の可能性を探るより、まずは本業の再構築を最優先に取り組むことに期待したい。地球環境意識が高まりつつある現在だからこそ、ファッションのサブスクの可能性を大いに広げてもらいたいものである。
(磯部孝/ファッションビジネス・コンサルタント)
最終更新日:11/21(月)16:52 ITmedia ビジネスオンライン