ゲーム機やゲームソフトで知られる任天堂が、「スーパーマリオ」など人気ゲームのキャラクターをリアル(現実)の世界にも登場させている。マリオの生みの親が「タレント事務所のようだ」と表現する任天堂だけに集客力は抜群だ。ゲーム機「ニンテンドースイッチ」の人気が続く一方で、任天堂は何を仕掛けているのか。
大阪市の繁華街・梅田にある大丸梅田店で11月11日、任天堂の直営店「ニンテンドーオオサカ」が開業した。13階にある約800平方メートルの売り場には、マリオの他にも「スプラトゥーン」「ゼルダの伝説」といったゲームのキャラクターをモチーフにした衣料品や雑貨など約2000点が並ぶ。
キャラクターのオブジェが随所に配置され、見ているだけでも楽しい空間だ。国内の直営店は2019年に開業した東京・渋谷に続き2店目となる。
そこから電車で十数分の距離にあるテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ、大阪市此花区)では21年3月、「スーパー・ニンテンドー・ワールド」と名付けたエリアがオープン。任天堂のゲームの世界観をアトラクションで表現し、人気を博している。
テーマパークで任天堂をテーマにしたのはこれが初めて。USJ内には、同じ人気キャラクターの「ドンキーコング」をテーマにしたエリアも24年に開設する予定だ。米国やシンガポールのテーマパークでも、任天堂をテーマにしたアトラクションの開業が計画されている。
1983年に据え置き型ゲーム機「ファミリーコンピュータ」を発売して以来、世界的に人気の高いゲームキャラクターを多く抱えている任天堂。マリオの「生みの親」として知られる宮本茂代表取締役フェローも、9日の経営方針説明会で「任天堂はグローバルで通用するタレントがたくさんいる事務所のようなものだ」と胸を張った。
任天堂がキャラクタービジネスを本格的に展開するようになったのは、実は最近になってからだ。今でこそ業績が絶好調の任天堂だが、スマートフォンゲームの流行が本格化した14年ごろは状況が違った。据え置き型ゲーム機「Wii U(ウィーユー)」の不振や携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」が伸びず、14年3月期まで3年連続で連結営業赤字を計上していた。
そこで当時の岩田聡社長(在任中の15年に死去)が、キャラクターの知的財産を積極的に活用するようかじを切った。15年には、スマホゲームを手掛けるIT大手ディー・エヌ・エー(DeNA)と資本業務提携を結んだり、USJのエリア設置に向けた協議を始めたりして、外部企業との連携を次々と打ち出した。
◇決算の数字に表れない効果
それでも任天堂にとって、依然としてまだゲーム機とソフトが収益の柱だ。22年9月中間連結売上高(6569億円)のうち、課金収入など知的財産関連は3・5%(235億円)にとどまる。キャラクタービジネスを重視する意味について、古川俊太郎社長は「ゲーム以外の分野で任天堂に初めて触れていただくお客様や、ゲームと距離を置いていたお客様との接点を継続的に作っている」と説明した。
専門家も決算の数字に表れない効果を指摘する。ゲーム業界に詳しい東洋証券の安田秀樹シニアアナリストは「一つのキャラクターをゲームやアニメ、グッズなど多方面に使うことで価値を何倍にも高めることができる。本業のゲーム事業で利益を上げるためのツールとして使えるのが一番良い」と話す。
安田氏は一例として、9月に発売した対戦ゲーム「スプラトゥーン3」を挙げた。ソフト発売前にコンビニ最大手セブンイレブンと協業し、パンなどの関連商品を展開させて話題を集め、790万本を出荷する好発進に結び付いたと分析する。
17年3月に発売したニンテンドースイッチは、新型コロナウイルス禍の巣ごもり需要も追い風となり、世界販売が1億1000万台を超えた。新たなゲームキャラクターも誕生しており、世界の老若男女に愛されている。キャラクタービジネスによる見えない効果を、どのように収益につなげていくのか。任天堂の次の一手に注目したい。【妹尾直道】
最終更新日:11/14(月)10:25 毎日新聞