明石海峡「タコおらん」乱獲拍車

つぼの中、金色の目が光る。太い腕を器用に動かし、無数の卵をいとおしげになでる。初秋、兵庫県沿岸はマダコの産卵シーズンを迎える。1~2カ月にわたって母親が守る卵の房は、フジの花に似るため「海藤花(かいとうげ)」とも呼ばれる。10万匹にも及ぶ赤ちゃんがふ化すると雪が舞うよう。見届けると母親は一生を終える。




 世界でも無類のタコ好きの国、日本。明石海峡はマダコの質量とも随一といわれるが、近年は記録的不漁が続く。漁業者は水揚げした抱卵つぼ(母親と卵が入ったつぼ)を海に戻すなど、資源保護に力を入れる。

 農水省の統計によると、兵庫のタコ類漁獲は2005年の4195トンから、21年には700トン(概算速報値)まで急落。県内一の水揚げを誇ってきた明石市でも前年の2割にとどまる。

 不振は今年も続いた。「情けなくなるほどタコがおらん。盛りの7月を過ぎるとガクンや」。同市二見町のタコつぼ漁師、西尾俊哉さんの表情が曇る。秋に入り、引き揚げたつぼ50個の中に1匹も姿がないことも。タイやハマチに狙いを変えた漁師もいるという。

 レジャーのタコ釣りも人気が高く、乱獲に拍車をかけている。遊漁者が使う餌木(えぎ)と呼ばれる仕掛けが海中に残り、漁師のけがの原因にもなる。市内の遊漁船の間では資源保護の試みが始まり、今年は禁漁期間の拡大が決まった。

 漁法や漁期の見直しなど漁業者のルール作りも大切。釣り客の影響も見逃せない。ただ、根本にあるのは海の環境変化だ」と指摘するのは、水産大学校(山口県下関市)元理事長の鷲尾圭司さん(70)。

 「水温上昇が生態系のバランスを狂わせた。下水処理基準の厳格化や農林業の近代化、治水目的の護岸はかえって海の栄養不足を生み、魚の餌を減少させている」とし、「海底のタコが人の営みに問いを投げかけている」と訴える。(小林良多)


■新鮮な餌しか食べない食通。頭が良くて目もいい。

 タコは大食漢のハンター。動物食でサザエやアワビ、カニ、エビ、小魚を旺盛に食べる。海の食物連鎖の中では上位の捕食者だ。

 世界には約250種以上のタコがいる。マダコは世界各地の温帯、熱帯地域の海に広く分布。寿命は1~2年と短いが成長が早く、体重はまれに5キロにも達する。

 「新鮮な餌しか食べない食通。頭が良くて目もいい。沿岸の生物の中では最強かもしれない」と話すのは、神戸市立水産体験学習館「マリンピア神戸さかなの学校」(同市垂水区)教頭の安室春彦さん(35)。タコやイカの研究で博士号を取得している。

 タコは無脊椎動物の中で際立って大きな脳を持ち学習できる。多くの神経細胞が集まる腕は好感度のセンサーの役目を果たす。瓶のふたを開けたり、触った形を覚えたりすることもできる。海底の賢者といわれるゆえんだ。

 安室さんは「タコを最も食べる国民だからこそ、生態にも関心を持ってほしい。漁業資源として守るための一歩だと思う」と話す。

最終更新日:11/13(日)22:51 神戸新聞NEXT

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6444594

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