かつてノートや手帳に“プリントシール(以下、プリ)”を貼り、シールや落書きで可愛くデコレーションした「プリ帳」を持ち歩いていた人も多いはずだ。
女子高生の遊びといえばショッピングやカラオケ、おしゃれなカフェ巡りなどが定番だが、プリは現在も不動の人気を誇っている。
プリの歴史を辿ると、1995年にアトラス(現セガグループ)が「プリント倶楽部」を世に出したのが始まりで、メディアへの露出や安室奈美恵のファッションを手本とする「アムラー」ブームも相まって、当時の女子中高生の間で大流行。プリは一大ムーブメントを巻き起こした。
1997年にプリントシール市場へ参入し、今ではプリントシール機(以下、プリ機)の設置台数の国内シェアが94%(2021年夏 フリュー調べ)と、圧倒的な支持を得ている企業がフリューだ。
同社の管理本部広報部・疋田 裕貴さんは「女の子にとって、プリ機の中でお友達と一緒に撮影し、“盛る”を楽しむ体験は、今も昔も変わらない普遍的な楽しさになっている」と話す。
通常グループインタビューを行う際は、消費者ニーズやインサイトを拾って、製品化に生かすことが多い。
他方、フリューの場合は「企画者が今の女の子と同じ目線を持てるようにする」こと、そして「開発している内容をブラッシュアップさせる」ことの2つが主な目的になっているそうだ。
「グループインタビューには、調査担当の担当者やプリの企画者・開発者も同席しておりまして、学校で流行っているものを聞いたり、カバンに入っているものを見せてもらったりして、“女の子の今”を把握できるように意識しています。また、実際に試作中のプリ機を試してもらい、リアルな声としてフィードバックをもらっています。そうすることで、提案したい機種コンセプトをぶらさずにどうすれば女の子に寄り添えるかをすり合わせているんです」
一方、新しいプリ機を作るのに企画から開発まで約1年~1年半ほど時間がかかるそうで、流行のスピードが早いガールズトレンドの先読みが重要になってくるだろう。
だが、未来への見立てや予測よりも「1年後にどんな機種を作れば、女の子に喜んでもらえるかを考えている」と疋田さんは語る。
「未来は誰にもわからないので、トレンドを予測するのではなく企画の段階で機種の方向性を決め、女の子の目線に立ちながら具現化していくプロセスでプリ機を開発しています。その際、女の子と同じ気持ちになっていなければ、心を掴むようなプリ機を作ることができないんです」
そんななか、プリ文化における特徴のひとつである“盛り”については「時代とともに変化している」と疋田さんは言う。
アムラーが流行り、さらには「egg」に代表されるギャル雑誌の影響でガン黒ギャルブームに湧いたのが90年代後半。
2000年代に入ると、姫ギャル系ファッション雑誌「小悪魔ageha」が話題を呼び、「age嬢スタイル」が女子高生の憧れになっていく。そして、先述したアイドルグループが人気を博すようになると、今度は清楚系が注目されるように──。
まさにガールズトレンドは目まぐるしく変化しているわけだが、「2010年代以降、女の子一人ひとりの『なりたい顔』が多様化し、いろんな盛り方が求められるようになった」と疋田さんは話す。
「今まではテレビや雑誌で見た『〇〇ちゃんのようになりたい!』というアイコンが女の子にとって憧れの存在だったわけですが、スマホの普及やSNSの台頭によって、好みの幅がものすごく広がったんです。最近だと骨格診断やパーソナルカラーなど『診断系』ニーズの高まりからもうかがえるように『最高の自分にカスタム』する盛れ方を意識する女の子も多いですね。
こうした多様なニーズに応えるために、最近では撮影後に顔を整えられるレタッチ&メイク機能が充実しています。普通に撮るだけでもプリは盛れますが、理想の自分になるために最新機種『TODAYL』では頭のサイズまでも整えられるようになっているんです。また、シールのデザインの種類を増やしたりと、様々な好みに対応できるようにラインナップを拡充しています」
1年ほど前から、女子高校生の間で流行を見せているのは「平成プリ」というもの。
かつての平成の時代に流行ったカルチャーや遊びを体験する「平成レトロ」が注目されていることもあり、ネオンペンを使って「ズッ友」や「仲仔(なかこ、仲の良い親友のこと)」といった落書きをプリに入れたりして遊んでいるという。
今後も「プリ文化を継承する使命を背負いながら、盛れた時の嬉しさ、友人とワイワイする楽しさなどを提供していきたい」と疋田さんは抱負を述べる。
「今まで積み上げてきた企画力、技術力などをさらに磨き、女の子に寄り添い続けること。最近では機械学習にも力を入れており、喜んでもらえるコンテンツの表現の幅を広げられるよう尽力しています。プリ機でしか味わえない体験を追求することを、これからも念頭に置きながらプリ文化を育んでいきたいと思っています」
<取材・文・撮影/古田島大介>
【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている
最終更新日:11/12(土)18:57 週刊SPA!