採用ゼロの衝撃 CA志願者の行方

コロナ禍で最も打撃を受けた業種のひとつが航空業界だ。コロナ前、大手航空会社は毎年数百人規模でキャビンアテンダント(CA)を採用していたが、一昨年、昨年と、ほとんどの会社が採用を中止し、志願者たちは難しい選択を迫られた。厳しい現実を前に、学生たちはどのような進路を選んだのか。そして今後、CA採用はどうなるのか。

■CA以外の就活はしない 夢を追ってアメリカへ

 一方、21年に関東の大学を卒業したBさんは、CA以外の職種で働くことがイメージできず、在学中、就職活動はしなかった。その後、留学を決意し、1年間の“浪人生活”を経て、いまはアメリカの大学で学んでいる。

「いま、海外の航空会社でCAになることを目指しています。そのため、英語のほか、フランス語、ドイツ語をマスターしようと、学生寮の外国人にむりやり会話につきあってもらっています。毎日、語学漬けです」

 浪人中、アルバイトで留学費用を貯めたが、それだけでは費用をまかないきれず、両親の支援を受けた。それが「心苦しい」と言う。

「いま、世界中の航空会社の求人を探しています。言葉のハンディはかなりありますが、あとがないので必死に勉強しています。まわりにCA志望者はいません。日本人学生も見かけない。情報交換もできず、ホームシックにかかることもあります。そんなとき、スマホで日本の友だちと話すのが唯一の息抜きです」。

 Bさんは自分が納得するまで「何度も挑戦する」と意気込んでいる。

■スキル高いCA志望者 他業界は待望

 CA採用が途絶えたこの期間に卒業を迎えた学生たちは、どんな進路を選んだのか。航空業界の就職情報誌「月刊エアステージ」編集長の川本多岐子さんはこう話す。

「コロナ禍1年目のときは不安を抱き、動揺する学生も多くいましたが、2年目以降は、募集がないなかでCAにこだわらないよう、大学が学生に助言したこともあり、航空業界以外の分野も調べて方向転換している学生も多かったです。CA志望者は、いつも清潔感のある身だしなみで、コミュニケーション能力が高く、対応がとても良い。責任感があるので企業も高く評価しています。CA志望者は他業界でも求められる人材なのだと思います」

 関東の大学のキャリアセンターの担当者はこう話す。

「CAの募集がないことに学生は大きなショックを受けると思ったのですが、意外に切り替えが早く、進路を変更している人もいます。CA志望の学生は語学、知識、教養、マナーなどがしっかり身についているので、他業種でも内定を多く取ります。CAにこだわって就職浪人をする人もいますが、その数は限られ、どうしてもCAになりたい学生には、一度、就職してから募集を待つことをすすめています」

九州の大学を卒業したCさん(21年卒)も、進路を変更した一人だ。Cさんは、第2志望だった電機メーカーに就職した。

「JAL、ANAが募集を再開したら応募するつもりでいましたが、仕事が忙しく、採用試験を受けられなかった。受験してもCAになれる保証はなく、いまの会社を辞めたら将来が不安なので、CAの夢は諦めました。この会社でキャリアを積むことを考えています」

 実際、大学にすれば、学生が就職浪人して進路が不確定な状態が続くより、はやく内定を取ってほしい。後輩や、その大学を希望する高校生のためにも、就職率を高い水準で維持したいという思いもあるだろう。

■新卒募集の再開も 「狭き門」は続く

 CAの夢を諦めていない既卒生にとって、今後の採用はどうなるのだろうか。川本さんはこう話す。

「今年、JALは3年ぶりに2023年度の新卒募集をしました。海外留学や大学院に進学してからCAを考える人、いったん就職してからCAを志望する人にも門戸を開き、募集をしなかった21年、22年の卒業生を第2新卒として同時に採用しました」

 22年4月、JALは数回にわたってオンライン会議ツールで採用説明会を行い、のべ3000人以上の学生・卒業生などが参加した。JALグループの日本トランスオーシャン航空は、CAを新卒・第2新卒に続き、既卒でも募集している。

 だが、JALのCA採用枠は約100人。コロナ禍以前の4分の1だ。ANAはまだ募集をしていない。志望者にとっては「狭き門」の状況が続く。

 この春、関東の大学を卒業し、大学院に進んだDさんはこう話す。

「募集再開を待っていましたが、不安です。いま、社会学を専攻し、観光について研究しています。CAがだめなら、大学院修了者を採用してくれる旅行会社やホテルを考えています」

 前出の川本さんは、CA志望者にこうエールを送る。

「コロナが落ち着くとCA募集は増えていくと思うので、いったん他社に就職していても、『やってみたい』という気持ちがあるなら、チャレンジをしてほしい」

 航空会社からすれば、数年採用できなかったなかから優秀な人材を採りたい。それゆえ既卒者に門戸を広げている。CAになる夢をかなえたい人には再挑戦できる機会だ。一方、新卒にとっては厳しい競争が待っているだろうが、初志貫徹でがんばってほしい。(文/教育ジャーナリスト・小林哲夫)

※この記事はAERA dot.とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。

最終更新日:11/6(日)19:21 AERA dot.

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6443898

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