自動車の技術は日進月歩で進化を続けている。多くのクルマで採用される新技術がある一方、意外にもなかなか流行の兆しが見られない機能もある。速度メーターなどをフロントガラスに映し出す、ヘッドアップディスプレー(HUD)はその一例だ。
見た目には派手で大きな進化があっても、市場に受け入れられるかは別の話だ。技術的にどれだけ困難なことを成し遂げたとしても、ユーザーが望んでいる機能とズレていれば普及しないのも当然だ。特に運転席周りのインテリアは運転感覚を大きく左右することもあるため、“見た目ばかりの進化”にはユーザーがついてこないことも多い。
中でも記憶に残っているのは、BMWやマツダなどが導入したHUD。フロントガラスに現在の速度や、道路標識などを映し出すシステムだ。従来はハンドルの直下などに埋め込まれた各種メーターを見なければわからなかった情報が、ごくわずかな視線移動だけで完結できる。何より、見た目のSF映画のような近未来感でクルマ好きの間では話題をさらったものだ。
トヨタや日産も取り入れているHUDだが、レクサスなどの高級車を除いては標準装備車がまだまだ少ないのが現状。その理由は、機器自体の値段の高さ以上に、ユーザーからの評価が分かれてしまっているからだと、筆者(上山龍介、フリーライター)は推測する。
HUDによるサポートを体験した人からは、
「かっこいいからオプションで付けたけど、常に視界の端っこでチラつくのはちょっと…。思った以上に邪魔だった」
「試乗で体験したときはワクワクが勝ったけど、意識が散るから逆に危ないかな」
という声も。体験としての喜びはあるものの、実際に運転してみると違和感を覚えたという声が多かった。
さらに焦点距離の違いも、運転好きの間でしばしば挙げられるHUD関連の難点だ。2台、3台、それ以上先で動く車両を見て運転するドライバーの多くは、遠い距離に焦点があっている。そんな状態で不意にフロントガラスのHUD表示を見ようとすると、焦点を合わせるためのタイムラグが発生してしまう。必然目を凝らす時間が長くなり、意識が手元に移りやすくなる……ということだ。
しかし一方、これらの問題は、従来の速度メーターを使っている状態と変わらない点にも注目したい。車速を知ろうと手元を見たり、標識を見たりするため、正面以外へ目を向けるのはまっとうな運転といえるはず。HUDの搭載有無に関係なく、ドライバーはその危険を冒しているのだ。
欲しい情報が目の前に浮かび上がってくるという、SFチックな見た目がインパクト大なHUD。だからこそ、“見た目のわりに”という色眼鏡で見られている節があるのかもしれない。
最終更新日:11/5(土)15:53 Merkmal