男女賃金差 開示義務で何変わる?

日本の女性の平均賃金は男性の4分の3の水準にとどまり、男女の賃金格差は国際的にも大きい。格差解消のため、政府は男女間賃金格差の公表を企業に義務付け、実質的に10月から開示がスタートした。2023年度からは有価証券報告書にも男女別の賃金開示を義務づける見通し。企業は開示を機に、人事制度や働き方の見直しが迫られる。【毎日新聞経済プレミア・渡辺精一】



 ◇なぜ大きい「日本の男女間格差」

 スイスの非営利財団、世界経済フォーラムは、男女間格差を測るジェンダーギャップ指数を公表している。22年版では、日本は146カ国中116位と主要国で最低、アジアでも韓国、中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国(ブルネイは非掲載)より下位だ。

 指数は「経済、政治、教育、健康」の4分野からなる。日本は教育、健康はトップクラスだが、経済と政治が大きく劣る。例えば、女性の管理職比率は130位、女性の国会議員比率は133位と低い。

 経済分野では、男女間賃金格差も問題だ。21年の厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、フルタイムで働く人の平均賃金は、男性を100とした場合、女性の割合は75.2と4分の3の水準だ。

 近年、差は縮まる傾向にあり、10年の69.3から改善しているが、80~90水準の他の先進国とは開きがある。

 なぜ、日本では男女間の賃金格差がこれほど大きいのか。

 厚労省によると、最も大きな要因は「役職」で、「勤続年数」「労働時間」がこれに次ぐという。これには、勤続年数が長いほど昇級・昇進で賃金が上がる年功序列型賃金体系があるためと考えられている。女性は男性より勤続年数が短いことから昇級しにくく、企業は女性の人材育成や管理職登用に消極的になりやすい。

 「家事や育児は女性の役割だ」とする伝統的家族観がいまだに根強いことも大きい。女性は短時間労働を志向しやすくなり、技能やキャリアを形成するのが不利になる。

 また、日本は正規・非正規の働き方による賃金格差が大きい。女性は非正規労働の比率が高いため、その影響を受けやすい。

 これに加え、無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)もありそうだ。

 リクルートワークス研究所は、日本の働き方の実態をみるため、16年から同一の個人を追跡調査する5万人規模の「全国就業実態パネル調査」を実施している。

 この調査で、(1)20~40代(2)大卒(3)正社員で新卒から同一企業に勤務(4)週35時間以上勤務(5)勤続年数5年未満――の順に条件を絞り、男女間賃金格差をみていくと、差は次第に縮まるが、最終的に女性の平均賃金は男性より1割低かった。

 勤続年数や雇用形態などの属性が変わらないのに、格差が生じているわけだ。同研究所は、企業の人材配置や育成方法で男女間に偏りが生じていたり、女性が結婚や出産を考えて仕事と家庭生活の両立がしやすい働き方を選んでいたりする可能性が考えられるとする。

 ◇数値だけでなく「要因」を読み解く

 政府は、女性の活躍推進のため、15年成立の女性活躍推進法で一定規模以上の企業に情報開示を求めている。厚労省は22年7月8日、同法の省令改正を行い、新たに、従業員301人以上の企業に男女間賃金格差の開示を義務づけた。

 正規・非正規・全労働者の3区分でそれぞれ、男性の平均年間賃金を100とした場合、女性はどれくらいの割合かを公表する。事業年度終了後3カ月以内の開示を求めており、7月のスタートから3カ月たった10月から実質的に開示が始まっている。

 開示の手段は問わないが、厚労省は、同省の「女性の活躍・両立支援総合サイト」の「女性の活躍推進企業データベース」に情報を書き込む方法を示している。10月30日現在、約500社が開示しているが数値はばらつきが大きい。なかには女性の平均賃金が男性を上回る企業もある。

 ただし、数字の見方には注意点がある。数字はあくまで平均値で、しかも採用、配置、昇進などが総合的に反映されたものだ。例えば、女性活躍を促すため、積極的に女性の新卒採用を進めていると、相対的に賃金の低い女性社員が増え、平均値が押し下げられている可能性もある。数値だけでなく、格差の主因が何かを複合的に読み解くことが重要になる。

 このため厚労省は、採用に占める女性比率▽労働者に占める女性割合▽管理職に占める女性割合▽平均継続勤務年数――など他の情報を併せて見ることを勧める。また、企業には、数字上の差が大きい場合は理由を書き込むなど「説明欄」の活用を促す。

 ◇有報に「非財務情報」記載へ

 男女間賃金格差は、有価証券報告書への記載も23年度から義務付けになる方向だ。

 金融庁金融審議会ワーキンググループは22年6月、有報に「サステナビリティー(持続可能性)」欄を新設し、人材育成や社内環境整備の方針▽男女間賃金格差▽女性管理職比率▽男性育児休業取得率――などを加えるとする報告書をまとめた。

 これらは「非財務情報」と呼ばれる。投資家や金融機関などが企業価値を評価する際、従来は財務諸表に基づく定量評価が中心だった。だが、社会の変化に伴い、企業が「新しい価値を創造できるか」「持続的成長が見込めるか」という観点から、世界では非財務情報の開示義務を進める流れがある。

 日本では従来、女性活躍に向けた情報の「見える化」は「優良企業を認定する」という意味合いが強かったが、今は、持続可能な社会を目指すうえでの企業姿勢を問うものへと性格が変化している。国内の主要運用会社は、女性取締役ゼロの企業は代表取締役の選任議案などに原則反対する方針を示している。

 企業は、男女間の格差がある場合、状況把握や課題分析を行ったうえで、是正に向けてどのような取り組みをするのか、説明責任が問われている。

最終更新日:11/5(土)12:42 毎日新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6443776

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