規制強化 「寸止め残業」まん延も

コロナ禍以降、リモートワークやフレックスタイム、出社時の時差通勤など自由度の高い働き方が広がっている。ただし自由度が高いといっても、オフィス通勤が当たり前だった時代のように会社に残って夜遅くまでダラダラと残業することは許されなくなっている。

近年では残業抑制策として「固定残業代」を支給する企業が増えている。固定残業代は、残業時間がゼロでも支給される。固定残業代の労働時間数より労働時間が少ないと、その分得をすることになる。もちろん想定残業時間を超えて残業した場合は超過分の残業代は支払われる。

 労務行政研究所の「人事労務諸制度の実施状況調査」(22年2~5月)によると、「定額残業手当」を支給している企業は10年には7.7%にすぎなかったが、13年に10.7%、18年に12.5%と徐々に増加し、22年には23.3%に上昇している。

 また、固定残業代の時間数の設定では、最も多いのは30時間の37.7%となっている。10時間が6.6%、15時間が9.8%。20時間以内の企業が計31.2%も存在する。固定残業時間は会社が想定している残業時間と見なすことができ、それを超えて残業することは「無能」の烙印を押されかねない。

 以前のように遅くまで残業している人を「あいつは頑張っている」と評価される時代ではもはやなくなってきている。限られた労働時間内にいかに効率的に仕事をこなし、成果を出すかが大きく問われる時代になりつつある。

限られた労働時間やリモートワーク下でタイムマネジメントの重要性は以前よりも増している。ラーニングエージェンシーの「組織・チームの在り方の変化に関する意識調査」(22年4月27日)によると「10年前に比べて特に重視されるようになった一般社員のスキル・知識」のベスト3のトップは「タイムマネジメント」(56.2%)。次いで「IT・デジタルに関するリテラシー」(54.5%)、「言語化する力(相手に合わせた表現で伝える力)」(48.3%)となっている。

 在宅勤務に限らない。出社してもフレックスタイムで出退社時間が各自異なる。さらにフリーアドレス制の企業も増えており、部下が社内のどこにいるかさえも分からなくなっている。社員の自律的な働き方が求められるニューノーマル時代では人事評価自体も大きく変わりつつある。

 従来の人事評価は行動評価と成果評価の2つが同じウエイトを占めていたが、行動評価が難しい中で目に見える成果評価のウエイトが高まっている──と説明するのは、IT関連企業の人事課長だ。

 「Web会議で自分の意見・提案をはっきりと分かるように言えるなど、目に見える成果が問われるようになっている。今後成果主義は、いや応なしに進むのは間違いない。確かに従来のように『彼は頑張っている』といった行動プロセスが見えにくくなり、ややもすると短期の成果だけに目を向けがちになる危険はある。そこはうまくやるしかないが、日本の企業はこれまであまりにも成果に注目するのが弱すぎたと思う。当社のようにリモートワーク中心の働き方ではより成果を重視する傾向が強まっている」

 コロナ禍で定着したニューノーマルな働き方は、たとえコロナが収束しても変わらないという企業もある。

 通信系企業の人事部長は「フリーアドレス、スーパーフレックス、リモートワークの3つの働き方を今後変えるつもりはない。会社としてはいろんな働き方のスタイルを提供するから、一人一人が自分に何が適しているかを考えて自分で選びなさいと終始一貫して言っている。ハイブリッド勤務であれ、自分で選ぶだけの話。自分で考えて自律的に仕事をする社員のほうが成果を出せるというのが当社の考え方。それに不向きな社員は正直言って必要ない」と言い切る。

 われわれがコロナ禍で得た自由度の高い働き方は一見、時間を自由に使えるように思える。しかし現実には、厳格な自己管理による自律的な働き方と成果が求められる厳しい世界が始まったと考えられる。

最終更新日:11/4(金)12:04 ITmedia ビジネスオンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6443671

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