年の瀬、西日本新聞「あなたの特命取材班」に悲痛な声が寄せられた。新型コロナウイルスの感染拡大で経営難に陥った個人事業主の男性が国の持続化給付金の支給決定が大幅に遅れ、まだ届いていないというのだ。申請は9月上旬。蓄えも枯渇してきた。「ノイローゼになりそうです」
男性は50代で福岡市在住。イベントや展示会の会場設営が仕事だが、2月末から9月末まで収入はゼロだった。約100万円あった預金は底を突いた。福祉施設に入る母親の入居費の支払いができなくなり、親族に頼っている。10月から多少仕事が戻ったが、収入は月数万円にとどまる。
個人事業主や中小企業向けの持続化給付金をインターネットで申請したのが9月10日。順調にいけば、100万円が支給されるはずだった。
約1カ月後、何の音沙汰もないのでコールセンターに最初の電話をした。男性担当者が「9月18日に審査の最終段階に入っている」と回答し、電話が切れた。再び掛けると、別の女性担当者が「まだ審査中のままです」と直前の回答を否定した。
事務局から、11月中旬にメールが届いた。コロナ禍以前から仕事をしていることを裏付ける追加資料を求められた。仕事先から口座への振り込みを確かめる「預金通帳の写し」だった。全国で不正受給が多数発覚し、審査が厳密化された一環とみられる。
男性はここ3年ほど、ネットで銀行口座の出入金を確認しており、通帳の記帳をしてこなかった。そこで、銀行から出入金の記録(預金取扱明細)を書面で取り寄せ、給付金事務局にすぐに送信した。
だが、動きがない。コールセンターに説明を求めると、預金取扱明細だとその基準にそぐわず、判断が遅れているというのが理由だった。中には「資料としては十分だと思いますが…」と漏らす担当者もいた。
男性はコールセンターや事業を主管する中小企業庁などへ多い日で1日に4回、計50回以上、問い合わせた。12月28日に最後の望みを託して電話をした。「年明けになります」。事務的な答えが返ってきた。
中小企業庁によると、今月21日時点で、約410万件の申請のうち約96%(約395万件)が給付済み。「申請から給付までにかかった日数」が2週間以内だったのは約68%だった。
今回のように3カ月を超えるケースについて同庁は「まれにある」とする。理由としては書類不備や、事業の実績が本当にあるのか疑われる事例などが考えられる、としている。審査については、コールセンターを運営する委託会社に任せているという。
福岡市の税理士はこれまで、この男性を含めて持続化給付金の申請を約50件支援してきた。「仕事の実績があるのは銀行の明細で把握できる。緊急時の給付金なのに、あまりに対応がしゃくし定規だ」と憤る。
男性は最近、体に疾患が見つかり、早めの手術が必要となった。「給付金を手術費に回し、早く良くなって、仕事をたくさんこなしていかないと」。今は、そう願うだけだ。(竹次稔)
最終更新日:12/30(水)19:39 西日本新聞