厚生労働省が初めて「しわ改善効果」を認めた商品『リンクルショット』を大ヒットさせた大手化粧品メーカー「ポーラ」。しわを研究し、発売まで実に15年の歳月を費やした。皮膚のかすかな炎症がしわの原因だとつきとめ、改善成分「ニールワン」を見つけ出した。1万5000円近くするが、これまでに370万本、470億円を売り上げる。創業90年余りのポーラを率いるのは、大手化粧品メーカーで初めて女性社長となった及川美紀社長だ。2020年に社長になってからは、新型コロナウイルスのまん延などで難しいかじ取りを任された。ポストコロナを見据え、どのような戦略を練るのか及川社長に聞いた。
―――当時は仕事に対して自信に満ち溢れていたんですね。
「子どもがいるのにこんなに働いている」とか「この仕事は私が一番うまくできる」とか。当時の私はいろんな意味で幸せな誤解をしていた時期だったんですね。「私、頑張っている」って。頑張っている私がいることをとにかく気付いて評価してほしいと思って昇進試験を受けるんですが、見事にそんな気持ちで受ける人は、会社は見抜くんですよね。
―――天狗になっていた鼻が思いっきりへし折られた?
へし折られたのと、へし折られて反省するんだったら良いんですけど「会社がわかってくれない病」になっちゃったんですね。「私の仕事振りをみていない」とグレたんです。すごくグレました。会社に入ってから一番。そんなある日、ずっと私を見てくれていたビジネスパートナーさんに呼び出されまして「及川さん、私、ひとこと言いたいことがあるの。最近のあなた、どうしちゃったの?」って。「あなた、このままドブに落ちていくつもり?」と。こんなセリフを言われたんですよ。
―――なかなか厳しい言葉ですね。
「これ以上、私たちのことをがっかりさせないでちょうだい!」と言われたんです。その時はさすがに目が覚めました。厳しい言葉でしたが、とてもありがたくて、でもちょっとショックで、会社に戻って「いま○○さんに呼び出されて、こんなこと言われました」と上司に言ったら、上司がすごくおおらかな人で「ようやく気付いた?」って笑ったんですよ。「我慢していたんだな、上司も」って思って。ところが上司は「今年の昇進試験を頑張ってみる?」って言ったんですよ。
―――きつい言葉を浴びせられたタイミングで?
まさにそのタイミングで。すぐに「頑張ります」って返事をしました。そうすると今度は準備の仕方が違うんですよ。「私を見て、私を評価して」だった私が、ほかの社員に対して「私は何ができるか」という視点でモノを考えるようになったんですね。そうすると「チームをこうしていきたい」「この組織をこうしたい」「私は組織の一員としてこういう役割を担いたい」と。全然姿勢が違うんです。おかげさまで昇進試験には合格しました。いままで過去の自分の業績だけを語っていた私が、未来の可能性と希望を語るようになったんです。
―――2020年1月に社長に就任されましたね。
青天の霹靂でしたね。「まさか私が?」と思いました。事業部を任されていたんですが、業績が厳しかったので責任を取らされるんだろうなと思っていました。呼び出されて社長に「業績が厳しくてすみません」と言ったら、「来年から君を社長にと思っているんだよ」と言われました。「あなたにはそんなにスキルがあるわけではないけど、変えたいことがあるよね?」と言われたんです。弊社はいい商品を作っていますし、販売現場でもすごく努力をしている人が多い。弊社の価値をもっと高めて、お客さまにもっと良い経験をしていただきたい。そのためには我々自身、まだまだ努力することがいっぱいあるよねと思っていたのは事実なんです。
―――社長になった2020年1月は、そこからすぐ新型コロナですよね?
そうですね。忙しすぎてほぼ記憶がありません。何をやっていたんだろうという感じです。ポーラのビジネスの仕方は、町に店があって、エステをして、そこから商品を買っていただく対面・接触の仕事がメインですよね。だから相当厳しかったです。対面・接触型からのビジネスの転換といいますか、オンラインへの切り替えだとか、とにかく必死にみんなで一歩前に進む、とにかく前を向くということをやってきた感じです。
―――アフターコロナで期待することはありますか?
私たちがこの間に自覚したのは「やはり人は人と会いたい」ということだし、密度の濃い人間関係は決して悪いことではないということです。オンラインの便利さは新しく手に入れたツールとしてこれからも持ち続けるだろうし、遠くの人との距離が近くなったのは1つ新しいことだけれど、そういうものを使いながらもリアルな人との関わりを大事にしながらやっていく。リアルな店舗で肌を触ってお手入れする楽しさや心地よさとか、やはり誰かと関わりたい、関わることで自分を高めていきたいということを、もっともっとビジネスチャンスに生かしていきたいとすごく思いますね。
―――ポーラの強みはどういった点ですか?
研究開発力の強みですよね。私たちの商品の中には日本初がたくさんあるということと、一生懸命にみんなで考えながら新しい商品を生み出しているということですね。どんどん女性も男性も進化していますから、その気持ちに寄り添いながら次の商品を作っていく力があると思っています。
最終更新日:10/29(土)14:08 MBSニュース