食べない方の入店お断り――。あるラーメン店がSNSに投稿した訴えが注目を集めている。2人連れの客が来店し、うち1人は注文せず、1杯のラーメンをシェアしたという。安価が売りの店側は「商売にならない」と音を上げ、「食べない方は外のベンチでお待ち頂きます」と訴えた。こうした客側の行動背景や、飲食店が被る損害について、グルメジャーナリストの東龍さんに話を聞いた。
「また起きてしまったかという印象です」
長年、飲食業界を見つめてきた東龍さんは話す。「飲食店の経営や、店の空間価値などといった視点が、まだまだ利用者に伝わっていないのではないかと感じました」
窮状を訴えたのは、茨城県水戸市のラーメン店。1杯400円~と安価で提供しており、「シェアして客単価200円では商売にならないため、当店はシェアをお断りします」とSNSに書き込んだ。子ども連れや、身体的理由など特別な事情がある場合はその限りではないという。
――店側と利用者側の意識のギャップを起こさないためにはどんな対策が必要でしょうか
東龍: 飲食店側からすれば、一人一品は本来、当たり前のことですが、日本の飲食店では海外に比べて、明言化されていないところが多い印象を受けます。「一人一品必ず注文してください」「召し上がらない方は外で待っていただきます」とはっきりルールを設けて提示することは大事かなと思います。
やはり時代も変わってきています。都内だけでも10万店以上の飲食店があり、外食産業は成熟し、情報もインターネット上にあふれ、いろいろな人が飲食店を利用しています。昔のように、知っている人だけが来店する、という時代ではないので、ルールを明確にし、ポリシーをしっかり伝えることが大切です。
――先ほどコストパフォーマンスのお話がありました。コスパ重視が盛んに叫ばれるのはなぜだと考えますか
東龍: よくいわれるように、日本人全体の所得が上がらず、そうすると、どんどん引き締めムードになります。自身もメディアの人間ですが、やはり、メディアの論調も「これは安い」「お得」といった具合に、なるべく出費を抑える方向の記事が増え、そうした雰囲気がどんどん強化されます。反対に、バブル景気のときは「もっと豪快に遊ぼう」という論調の記事が多く見られました。
――日本と海外の飲食店を比べて見えてくる違いはありますか
東龍: 海外ではレストランなどではルールを明言化しているところが多いです。また海外の方が、レストランは特別な空間という意識が高く、食の知識を学ばれている人も多い印象を受けます。欧米などには、チップの文化がありますよね。チップをいくら払うかという観点から、利用者が飲食店のサービスや、空間の価値、従業員の立ち居振る舞いなどに対して、注意を払うという意識が高いかもしれません。日本の場合は、飲食店が設定するサービス料が上乗せされるので、そこまで意識をする人が少ないのかもしれません。
――飲食店と利用者の双方が気持ちよく食事を楽しめるようにするためには、どのような取り組みが必要になるのでしょうか
東龍: 飲食店側としては、ルールの明言化が必要ですね。そして、利用者の意識という観点からは、やはり国が「食育」に力を入れることは大切だと考えます。例えば、日本が世界に売り出す「和牛」。海外からおいしいと絶賛されるのに、「ところで和牛とは何ですか」と聞かれると、正確に答えられる日本人はあまりいません。こうした食育の不足が、飲食店でのルール違反などにつながる、1つの原因なのではないかと感じています。
最終更新日:10/29(土)7:45 ITmedia ビジネスオンライン