数々の名作アニメ映画を生み出してきた「スタジオジブリ」。ジブリパークはその「テーマパーク」という位置づけだが、ジェットコースターがあるわけでなく、キャラクターの着ぐるみと触れ合えるわけでもない。もともとある「愛・地球博記念公園」(愛知県長久手市)の景観を生かしてジブリの世界観に浸れることがこの施設の特徴だが、長く愛され続けるためには何が必要だろうか。専門家に聞いた。
「公園でもありテーマパークでもある、日本初のハイブリッドな施設」。大村秀章知事がそう意気込むジブリパークは、全部で5エリアに分かれ、このうち3エリアが11月に開園する。来年度までに残る2エリアも完成予定で、県は年間で約180万人の来園者数と、約480億円の経済効果を見込んでいる。
こうした県の試算について、地元シンクタンク「中部圏社会経済研究所」研究部長の難波了一さん(47)は「妥当な数字」だと見ている。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いてきていることもあり「ジブリは日本だけでなく世界中にファンが多く、インバウンドの効果も期待できる」と話す。
難波さんは開園による波及効果として、日本のアニメ文化の世界への発信▽若い世代が流入を続ける長久手市から県全体の住みやすさをPR▽名古屋市内のホテルなどを拠点にした県内観光――の3点を挙げる。
「テーマパークとして考えると、規模感はそこまで大きくはなく、単体で爆発的な効果は期待できないかもしれない。ただ、単に『集客を増やす』ことばかり念頭に置くわけではなく、観光に弱いと言われ続けてきた愛知、名古屋が存在感を出していくための起爆剤にはなりうる。行政が運営するからこその意味は十分にある」と指摘する。
◇試されるイベントの企画力
テーマパーク経営に詳しい明治大経営学部兼任講師の中島恵さんは「ジブリパークはテーマパークというよりも、『大きな公園内に美術館を設置している』というイメージの方がしっくりくる」と話す。中島さんによれば、ジェットコースターのようなアトラクションがないため、それほど大きなコストをかけることなく運営できるという。
一方で、安定的な運営のために欠かせないのは「集客」以上に「集金」で、飲食やおみやげなどの充実度合いがパークの成否に大きく影響するという。
ハロウィーンやクリスマスなど季節にちなんだグッズの販売や瀬戸焼など地元の名産とコラボした商品の販売、写真映えを意識したスイーツや料理といった「パークフード」の充実など、「ここでしか買えないもの」をいかに売り出せるかがポイントで、イベントの企画力も試される。
ただ、ジブリパークはエリアごとに日時指定の予約制となっていて、それぞれに料金がかかる。中島さんは「こうした形態の運営は初めての試み。すべてのエリアを見るためにお客さんが何度も足を運ぶかどうかは未知数」と指摘する。
集客に成功している例として中島さんは、埼玉県飯能市にある「ムーミンバレーパーク」で行われている「ナイトウォーク」を挙げる。中島さんは「LEDの光で演出し、ムーミンの物語に出てくるキャラクターを探したりしながら園内を散策でき、夜も集客につなげている。(ジブリパークも)何か目新しさを提供し続けていくことでリピーターの獲得につながっていくはず」と話す。
運営する「ジブリパーク社」によると、すでに申し込み受け付けを締め切った11月と12月のチケットはいずれも予定販売枚数を終了しているといい、注目度の高さはうかがえる。しかし、その熱気が一段落した後が勝負になる。
中島さんは「リピーターになりやすい近距離に住む人たちや、インバウンドの外国人をいかに呼び込むかが鍵になる。愛知万博が大成功し、その後も憩いの場として多くの人が訪れている場所に、ジブリという素晴らしいコンテンツが合わさった。人を呼び込める力は十分に備わっているので、あとは工夫次第」と話す。【加藤沙波】
◇ジブリパークと近隣観光スポットとの大人料金比較
▽ジブリパーク 計4000円(休日4500円)
・ジブリの大倉庫 2000円(休日2500円)
・青春の丘 1000円
・どんどこ森 1000円
※来年2月入場分から、青春の丘はジブリの大倉庫との
統合チケット(3000円)でのみ販売。
▽名古屋城、東山動植物園 各500円
▽明治村 ※入場のみ2000円
▽名古屋港水族館 2030円
▽ナガシマスパーランド ※入場のみ1600円
(乗り物パスポート付き)5500円
▽レゴランド・ジャパン ※時期により変動
4600~7100円
最終更新日:10/26(水)16:19 毎日新聞