9月、イオングループのドラッグストアチェーン、ウエルシアホールディングスは、イオン九州との合弁会社イオンウエルシア九州を設立したことを発表した。
イオン九州は総合スーパー事業者であり、その生鮮を含めた食品の売場作りとウエルシアのドラッグ+調剤を統合した、いわば「生鮮フード&調剤ドラッグ」の業態を展開する事業会社となる。
既に両社は合同での実験店舗で成果を出しており、その店舗は以前、食品スーパーとドラッグストアの共同出店であったところを、この実験店に変えて、食品売り上げが2割アップ、ドラッグ部門が5割アップとなったという。
ウエルシアとしては、こうした結果を踏まえ、この新業態を2030年までに200店舗、売上高1800億円にするという目標を立てているというのだから、かなり鼻息は荒い感じなのだが、これには背景がある。九州のドラッグストア市場は、宿敵コスモス薬品(以下、コスモス)の牙城だからである。
コスモスは食品強化型ドラッグストアの筆頭であり、生鮮を除く食品を低価格で販売することで集客し、ドラッグ商材である薬粧をついで買いさせるビジネスモデルで最も成功している企業といえる。
売り上げに占める食品の割合は6割を超えるのだが、そこでは収益を稼ごうとはせず、安売りに徹し、残る4割弱の薬粧で収益を確保する。物流効率などランニングコストを抑えるコスト構造を確立しているため、それでも十分な収益を稼ぐ。
進出地域の地場ドラッグストアの売り上げに大きな脅威となってきたことに加え、店が増えてくると地場食品スーパーの売り上げにもダメージを与えるため、中四国などではコスモスの増殖がきっかけで、ドラッグストア、スーパーの両方で再編が起きたといわれている。
西の端、九州にその地盤を築いており、そこから物流網を整えると隣接する地域に進出する。いまやその店舗網は中部、関東に達し、前線で大量の新店を投入して店舗網を築いている。また、地盤九州や第2地盤となった中四国にも手を抜かず、着実にドミナント密度を上げ続ける。
さらに厄介なのは、安定的な収益基盤を築いた九州を確保しているコスモスに対して、大手競合は近畿、中部、関東という人口密集地の争奪戦を行っているため、本拠地がそのまま激戦地となってしまっている。ドラッグ大手にとって、コスモスの本拠地はたたきたいが、物流効率も悪く、主戦場でもない九州には本格的攻勢を掛けづらかった。
一方、コスモスは九州で安定的に確保した収益を、東進するための投資資金に回して、競合大手の本拠地を攻略し続けることが可能だったのである。
イオンウエルシア九州は、イオン九州のインフラを活用して、コスモスの本拠地九州に楔(くさび)を打ち込むための戦略を担っているのだ。
少し話は変わるが、九州には生活必需品をワンストップで品ぞろえしたチェーンがもともと数多く存在する。こうした小売りチェーンは基本的に、食品や家庭用消耗品をディスカウント販売することで集客して、各社の得意とする商材を収益商材として、ついで買いさせるというコスモスの原型のような構造を持っている。
「なぜ九州に多いのか」と言えば、かつて、スーパーやコンビニが3大都市圏に侵透したような時代(1970~80年代あたり)、まだ大手チェーンがあまり浸透していない九州は格好のアウトレットエリアだったらしいのだ。売れ残り商品や賞味期限が近くなって出荷出来ない商品を問屋などが売りさばくためには、大都市から離れていて、大手チェーンの縄張りでなく、その割には1000万人以上人口がいる九州は、在庫処分するためにディスカウント販売するのに格好な場所だったという。
そうした背景から、九州にはディスカウント販売を取り入れた生活必需品をワンストップ、かつショートタイムに買い物できるタイプのチェーンがさまざまあって、それぞれ活躍している。
また、忙しい働く女性の多さとその機動力となる軽自動車の普及も、生活必需品ワンストップ&ショートタイム型の店を産み出した要因の一つであると考えられる。
働きながら家に帰ると家事を中心的に担っている女性にとって、日々の買物に使う店の要件とは、(1)勤務先からの帰りの動線上にあって、(2)一カ所で全ての必需品が買えて、(3)短時間で済ませられる、ということになる。
図表(※)は、都道県別に女性有職者割合とその機動力となる軽自動車の一人あたりの保有台数を示したもの。東北の一部、北陸、山陰、九州がそうした環境にあることが分かると思うが、実は北陸にも、こうした生活必需品ワンストップ&ショートタイム型企業が発祥して力強く成長している(※外部配信先では、全ての図表をご覧になれない場合があります。その際は、ITmedia ビジネスオンラインの誌面から記事をお読みください)。
クスリのアオキ(石川県、売上3283億円)、ゲンキー(福井県、売上1545億円)はドラッグストアから、こうした業態に発展させた企業であり、中部から東日本方面に向けて拡大を続けている。九州はこうした社会環境に加えて、前述の「アウトレット」の歴史があり、多くの企業を育んだのかもしれない。
主に九州、北陸で発祥した生活必需品ワンストップ&ショートタイム型のチェーンは今や関東や東北にも出店し始めている。
22年4~8月の大規模小売店舗立地法の小売店新設届け出は69件あるが、そのうち22件はコスモス(福岡県)、クスリのアオキ(石川県)、ダイレックス(佐賀県)の3社で占めている。もう何年かすると、関東、東北にもこうした業態の店を普通に見かけるようになるだろう。
これらの店は、大型店のように一気に売り上げを奪う訳ではないので、知らないうちに店舗数が増えて、周囲を囲まれていた、という状況に追い込まれるらしい。出店すれば、一定割合のシェアを取っていくようで、対症療法はないため、地域シェアの低い店から順に追い込まれていく。
こうした新手の店舗が増えると、関東、東北のドラッグ、スーパーの競争環境はこれまで以上に厳しくなることは避けがたく、地域シェア上位店を目指して、切磋琢磨していくしかない。
巣ごもり需要の反動落ちに入ったドラッグ、スーパー業界の各社にとって、新たな難敵の出現はかなり悩ましいことだろう。
最終更新日:10/24(月)14:22 ITmedia ビジネスオンライン