9月28日、米アマゾンが米国内の物流施設で働く人の平均初任給を10月から前年比約6%アップの時給19ドル以上に引き上げると発表したことが大きな話題になった。円安ドル高が進んでいるとはいえ、1ドル=149円なら時給2834円だ。
同じ初任給でも職務や地域によって16~26ドルの範囲になるが、最も安い16ドルでも日本円で2386円になる。
物価上昇が続くアメリカの超巨大企業と単純比較することはもちろんできないものの、一方で東京都の最低賃金は1072円にすぎない。
正社員の給与が上がらない日本だが、今や行政が主導する「最低賃金の引き上げ」が、正社員の賃金の上昇を上回り、最低賃金に応じて給与を引き上げるという事態すら起きている。
エン・ジャパンの「400社に聞いた『最低賃金改定』実態調査」(2022年9月22日)によると、
10月からの最賃アップを受けて「最低賃金を下回るため、最低賃金額まで引き上げる」と回答した企業が24%に上った。また「最低賃金を下回るため、最低賃金額を超えて賃金を引き上げる」も17%いた。
つまり、計41%の企業が最賃アップで賃金を引き上げざるをえない状況になっている。
また、「最低賃金は上回っているが、賃金を引き上げる」という企業も14%もあり、最賃アップの影響力が増している。
これは中小企業に限らない。従業員1000人以上の企業でも「最低賃金を下回るため、賃金を引き上げる」企業が64%と最も多くなっている。
こうした事態にアンケートに回答した人事担当者からは「最賃のみ上がり、既存従業員の給料がアップしないため不平等感がある」(サービス関連/300~999人)との声も上がっている。
こうしたコメントからも、たとえ最低賃金を上回っている企業であっても、最賃の引き上げによって、企業が給与全体を引き上げる必要を感じているとも言えそうだ。
主要な産業別労働組合の回答も東京都の最賃を軒並み下回っている。
大手電機メーカーで組織する電機連合が16万6903円、鉄鋼メーカーなどで組織する基幹労連が16万6514円、電力会社で組織する電力総連が16万7400円だ。
日本の基幹産業といわれる自動車産業で組織する自動車総連も16万5059円だ。
自動車総連は2020年の春闘要求で初めて企業内最低賃金を「18歳16万4000円以上」とする労使協定方式を盛り込み、2022年も高卒初任給に準拠した「18歳16万8000円以上」での協定化を掲げた。組合員の賃金アップに向けて率先して戦ってきた代表的な労組と言える。春闘の取り組み方針では地域別最賃を意識し「2022年頃には全国加重平均が1000円程度、とりわけ東京・神奈川では1100円程度となることが見込まれる」と傘下の労働組合に発破をかけている。
しかし自動車総連はベースアップに関しては2019年以降、要求額を示していない。ただし初任給に関してはさすがに最賃の上昇で足下に火が付いた格好になり、最賃基準死守を掲げていたが、結果的には他の産別労組と同様に最賃を割る結果になった。
最終更新日:10/20(木)17:29 BUSINESS INSIDER JAPAN