百貨店のお歳暮(せいぼ)商戦が始まった。新型コロナウイルスの感染拡大後、各社は巣ごもり需要を狙い、「お一人様」でも楽しめる商品を投入してきたが、今年は3年ぶりに行動制限がなく、家族や友人で集まって楽しめる食品や、〝解放感〟を反映した華やかなスイーツをアピール。一方、相次ぐ値上げで日頃手が出にくくなっているビール、コーヒーなど日常的な食品や飲み物を贈り物とするよう提案している。
「娘たちの嫁ぎ先に孫たちも喜ぶようなチョコレートやバームクーヘン、妹たちには最中を贈ります」
あべのハルカス近鉄本店(大阪市阿倍野区)で19日午前、同市内の百貨店の先陣を切る形で店頭でのお歳暮受注が始まり、注文に訪れた大阪府大東市の阪本さわ子さん(71)は顔をほころばせた。
クッキーの「ザ・マスターbyバターバトラー」(3564円)など、店内に売り場やレストランを構える人気ブランドから94点を厳選。担当者は「特別感があり、見た目にこだわったスイーツを強化した」と話す。
スイーツを含めて自宅で少しぜいたくな感覚を楽しんでもらえる「ご自宅用商品」の売り上げが、今年のお中元で前年比22・8%増と好調だった。3千円前後の価格帯を中心に人気という。お歳暮でも和菓子やチーズセット、ステーキなどを打ち出している。
大丸と松坂屋も「売れ筋ナンバーワンは洋菓子。いかに新しいブランドを呼んでくるかが勝負」(大丸松坂屋百貨店広報)として、大丸東京店で人気の「N.Y.C.SAND」(5400円)をお歳暮に初登場させた。
高島屋は昨年まで、コロナ禍を受けた「巣ごもり需要」の高まりに合わせて、贈答用よりも自宅用ギフトに力を入れてきた。
今年、高島屋大阪店(大阪市中央区)は、札幌名物でお酒の後に楽しむ〝締めパフェ〟のセットをアピール。担当者は「ウィズコロナが定着し、人が集まる機会が増えるはず。家族や親しい友人と楽しむという切り口で攻めたい」と力を込める。
阪急百貨店も、家族や友人同士でクリスマスに楽しめるドイツの伝統菓子「シュトレン」(4968円)などを売り込む。阪神梅田本店(同市北区)は4月のリニューアルオープンを受けて「『食の阪神』らしく、バイヤーが選んだ全国のおいしいものを届けたい」(担当者)と意気込む。
一方、原材料費の高騰による食料品の値上げをにらんだ品ぞろえも生まれている。大丸松坂屋百貨店は「今年のお中元ではビールやコーヒー、そうめんなど、日常的に消費する品物が好調だった」として、お歳暮でも力を入れる。スーパーマーケットで買うような比較的安価な商品も値上がりで生活費を圧迫しているため、お歳暮でまとめて受け取るという「お得感」に着目した動きだ。
◆気軽なギフトに活路
日本独特の文化として続いてきたお歳暮やお中元などの贈答品の市場は、コロナ禍の拡大や縮小などに影響されつつ、長期的には、贈答の習慣が薄れたことで縮小傾向にある。
調査会社の矢野経済研究所によると、お歳暮の全国市場規模は平成29年の9650億円から今年は8430億円まで落ち込むと予測している。
ただ、近鉄百貨店によると「(企業・団体間の儀礼的な贈答ではなく)贈る相手の好みや年代を考えた〝パーソナルギフト〟の需要が高まっている」。大丸松坂屋百貨店は「若い世代を中心に、もっと気軽にギフトを贈り合う習慣が生まれている」と話す。こうした流れもあって、阪急うめだ本店(同市北区)は前年比2%増、阪神梅田本店は5%増の売り上げを目標に置いている。
帝国データバンク大阪支社の昌木裕司情報部長は「(2月14日の)バレンタインデーは女性から男性にチョコレートを贈る習慣が次第に変化し、性別にかかわりなく友人や家族同士で贈り合ったり、自分へのご褒美にしたりといったニーズが増えている。お歳暮も同じ経過をたどるのではないか。単にお世話になった人に贈るだけでなく、用途がさらに広がっていきそうだ」と指摘する。(牛島要平、井上浩平)
最終更新日:10/19(水)19:18 産経新聞