iPhoneや外国オーケストラ公演が、日本人には高嶺の花になってしまった。これまでも日本は円安によって貧しくなっていたが、今年3月からの急激な円安で、それがはっきりとわかるようになった。
昨今の経済現象を鮮やかに斬り、矛盾を指摘し、人々が信じて疑わない「通説」を粉砕する──。野口悠紀雄氏による連載第78回。
■iPhoneはもはや高嶺の花
アップルは9月7日、新機種iPhone14シリーズを発表した。日本での価格は、最も安いタイプで11万9800円。 Pro Maxは約20万円だ。
新型コロナの感染で、外国オーケストラやバレエの公演からは、この数年、足が遠のいていた。コロナが終わればもとのように行けると思っていたのだが、そうしたことはもうできないだろう。そう考えると、なんとも情けない気持ちになる。
私たちの世代の学生時代は、外国のオーケストラやバレエを実際に見たり、聞いたりするなど、夢のまた夢だった。いま、再びその時代に舞い戻ってしまった。円の購買力が固定為替時代の水準に戻ってしまったから当然のことなのだが、それにしても、なんと憎っくき円安だろう!
エレベーターには窓がないから、こうしたことになるのだ。
自分の位置を正しく知るには、エレベーターの「窓を開ける」必要がある。日本にはいま、外の世界が見える窓を開けることが必要だ。
ビッグマック指数で日本の購買力が低くなったことは、多くの人が知っていた。しかし、これまでは、それが私たちの生活に直接影響する問題だとは考えていなかった。
なぜなら、ビッグマックは、アメリカと同じものを日本で作れるからだ。日本の安い労働力を使って、価格が安い(しかし同じ品質の)ビッグマックを作れる。だから、わざわざアメリカまで(あるいは他の国まで)高いビッグマックを買いにいく必要はない。日本で安いビッグマックを買えばよいだけのことで、さして大きな問題だとは感じていなかった。
輸入価格高騰の半分程度はウクライナ問題などの海外要因によるが、半分程度は円安による。ウクライナ問題がおさまっても、構造的な円安が続けば、日本は貧しさのスパイラルから脱却することはできない。
このままの事態が続けば、日本人には高くて手が届かないものが続出するだろう。「舶来品」という言葉は、長らく死語となっていたのだが、それがよみがえるかもしれない。
そして、20年後の日本は、信じられないほど貧しい国になってしまいかねない。
最終更新日:10/2(日)12:51 東洋経済オンライン