千葉県君津市にある日本製鉄の製鉄所からこの夏、周辺の水域に有毒物質のシアンが流出する問題が起きた。日鉄が調べたところ、過去にも複数回、排水口などでシアンが検出されていたのにもかかわらず、県などに報告していなかったことが判明した。
事態を重くみた県は、原因究明と再発防止策の報告を命じた。日鉄が9月30日、県に提出した報告書で新たな事例も明らかになり、シアンの検出・報告漏れは2017年以降で計59回に上った。ただ、担当者の「誤った認識」が主な原因で、組織的な隠蔽(いんぺい)ではなかったとした。
問題が起きたのは、東京湾に面した京葉工業地域の一角にある日鉄東日本製鉄所君津地区。同製鉄所の谷潤一所長が同30日、県庁を訪れ、報告書を提出した。その後、記者会見した谷所長は、「地域、行政、そのほか関係のみなさまの信頼を裏切ることになり、心よりおわびを申し上げます」と陳謝した。
■近くの川が赤褐色に染まり、多数の魚の死骸みつかる
製鉄所は半世紀余りの歴史を持つ。旧八幡製鉄君津製鉄所として1965年に創業。68年、高炉に火がともった。当時、世界最大級の粗鋼生産量を誇り、ノリづくりで知られた農漁村の君津は鉄鋼のまちとして発展した。製鉄所のパンフレットには「設立当初から、環境について取り組んできました」とある。
その製鉄所で今年6月、生産工程で生じる「脱硫液」が敷地外に漏れ出し、水路を経て近くの小糸川に流入していたことがわかった。川の水が赤褐色に染まり、多数の魚が死んでいるのが見つかった。地元住民が「初めて見る光景」と驚く出来事だった。
その後の日鉄や県の調査で、周辺の水路や、東京湾に直接注ぐ排水口から、シアンが検出された。水質汚濁防止法に基づく排水基準では検出されてはならない物質だ。
問題はこれにとどまらなかった。日鉄が過去にさかのぼって総点検を進めるなかで、過去にたびたびシアンが検出されていたにもかかわらず、県などへの報告も、公表もしていなかったこともわかった。
日鉄によると、2019年2月~22年4月、特定の排水口で、計39回検出されていた。記録の義務があるケースでも、日を改めて排水を採取し、不検出となった結果を記録していた。日鉄と地元自治体の環境保全協定に基づく水質調査でも、敷地内の排水溝で19年5月~21年12月に計7回、シアンや有毒物質のセレンが協定値を超えていた。
「非常に不適切な対応があった」(県水質保全課)。事態を重くみた県は8月下旬、水質汚濁防止法に基づく行政処分として、原因究明と再発防止策の報告を求めた。虚偽の報告をした場合などは刑事告発もあり得る対応だ。県が求めた報告期限の9月30日、日鉄は報告した。
最終更新日:10/1(土)17:41 朝日新聞デジタル