転職10日前の内定切りは解雇?

2020年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、多くの人や企業が経済的にも苦しんでいるが、「コロナを理由とした経営悪化」を理由とした「内定切り」も、新卒・中途問わず、問題となった。



弁護士ドットコムニュースのLINEに情報を寄せてくれたITエンジニアの岩田友美さん(仮名)は、転職先の企業から、11月後半に口頭で内定取消しを伝えられた。12月頭に入社して働くはずだった。

相談に向かった労基署では「労働契約は成立していない」と言われ、泣き寝入りも考えた。

しかし、労働問題に詳しい弁護士は「労働契約は成立している。解雇にあたる」と解説する。対策を聞いた。(編集部・塚田賢慎)

●内定取消しは「解雇に該当します」

労働問題に詳しい笠置裕亮弁護士はこのように解説する。

ーー相談者の「内定取消し」は解雇に該当しますか。また、転職予定先の企業に解雇予告手当を求められるでしょうか

日本では、企業が採用内定通知を出した後の段階においては、内定通知の他に、労働契約を締結するにあたって追加で交渉が行われることは通常ありません。企業側から、労働契約締結にあたっての特段の意思表示が行われることもありません。

このような日本の採用の慣行を踏まえると、ほとんどの場合には、採用内定通知が出されたことによって、応募者と企業との間には労働契約が成立したと解釈されることになります。

今回のケースでも、通常の事例と異なる事情はないように見受けられます。そうだとすると、内定取消しは、使用者がすでに成立している労働契約を一方的に解除する行為にほかなりませんから、解雇に該当します。

そのため、企業が内定取消しを有効に行うためには、客観的合理性を備えた解雇理由があり、かつ当該従業員に解雇を行うことが社会的に相当と言えなければなりません(労働契約法16条)。また、労働基準法20条により少なくとも30日前の内定取消しの予告あるいは30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う義務が生じます。

過去に、内定取消しの効力が争われた事例として、大日本印刷事件(最高裁S54.7.20判決)があります。大学の新卒者が、採用内定を受けた企業の入社式から約1カ月前に、「グルーミーな印象」(=陰気な印象)であることを理由に内定取消しされたというものでした。

最高裁は、採用内定取消しが解雇にあたり、解雇が許されるためには、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが…客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる」ことが必要であると述べたうえで、この企業が行った採用内定取消しを違法無効と判断しています。

●労基署は「採用内々定のケース」と勘違いしたのではないか

今回は、労働者側の事情ではなく、専ら経営上の理由による解雇ですから、いわゆる整理解雇の4要件(1.人員整理の必要性 2.解雇回避努力義務の履行 3.被解雇者選定の合理性 4.解雇手続の妥当性)が満たされなければ、解雇が有効になることはありません。

今回の事例では、内定通知と内定取消しとの間の期間がかなり近接しているわけですが、このような短い期間に解雇が是認されるほどの急激な経営悪化があったと認められない限り、内定取消しが有効であるとは言えないのではないかと考えます。

労基署の相談員は、採用内定が解雇ではないと言い切ったそうですが、労働契約が未だ成立していないと考えられている、採用内々定のケースと混同してしまったのではないかと思われます。

ーー前の企業で得られるはずだった冬の賞与について、逸失利益として、内定取消しをした企業に求めることは可能でしょうか

前職での賞与については、様々な事情を酌んで、あくまで放棄する前提で入社日を決めているわけですので、内定取消しをした企業に対し請求することは難しいと思われます。

ーーでは、前の企業に改めて賞与を求めることは可能でしょうか。就業規則がなかったので「支給日の在籍」など、一時金の支払い条件は不明です。ちなみに、岩田さんは「前の会社に過失はない」と考えているため、支払いを求める考えはありません

前職への請求は、賞与の請求根拠・額が不明である以上、なかなか難しいと思われます。

●労働者側の専門家に相談してほしい

ーー内定取消しを受けた相談者は、このような場合、どのような手続きをとることができますか

通常の解雇と同様、労働審判や訴訟を通じて、内定取消しが違法無効であることを前提に、地位確認請求や賃金・賞与の請求を行うことができます。今回のように、企業側が謝罪の姿勢を示している場合には、弁護士を通じた交渉や労働組合(ユニオン)を通じた交渉により、解決の道筋をつけることができるかもしれません。

いずれにせよ、まずは労働者側で労働事件を取り扱っている専門家にご相談いただくことが、解決の早道であると考えます。

●相談者「励みになる」

笠置弁護士の解説を受けて、「解雇と言ってもらえて励みになった」。そう話す岩田さんは、年明けにも改めて労基を訪れるつもりだといいます。

公的な機関であれば、全国各地の「総合労働相談コーナー」を利用することも考えられます。

【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「労働相談実践マニュアルVer.7」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/

最終更新日:12/25(金)13:16 弁護士ドットコム

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6380428

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