先日、61歳の女優・宮崎美子が変わらぬ美貌を披露したカレンダーが大きな話題に。カレンダーといえば、年末の風物詩としても馴染みのあるものだが、昔から変わらぬアナログの商品でもある。政府でも“脱ハンコ”の動きが加速するなど、より一層デジタル化が進んでいる昨今。今後、紙のカレンダーの生き残りの道はあるのか? これまでの変遷、未来について、カレンダーの制作・出版を手掛ける株式会社ハゴロモの桐山智行さんに話を聞いた。
■「淘汰される」かと思いきや、デジタル化された今も年末の風物詩
――デジタル化が急速に進む今、アナログな商品であるカレンダー業界に変化はありますか?
「スマホで予定の管理をする人も増え、私自身、カレンダーは淘汰されていくのではないかと感じてました。でも、ここにきて思うのは、意外としぶとく生き残っているなということ(笑)。確かにスケジュール管理はデジタルが便利です。では、カレンダーにはどんな価値が残っているのかというと、ポスターやインテリア的な価値、また視覚的にスケジュールを共有する価値があるのではないかと思います。ふとカレンダーを見て『今年も終わりだな』と時節を感じたり、家族や職場で予定を立てて、それに向かって行動したり。そんな、皆で共有するためのツールとしても利用していただいているように感じます」
――つまり、一つの文化として社会に根付いていると?
「そう思いますね。この時期、書店でカレンダー売り場が盛況になる光景は、デジタル化された今でも風物詩になっていると思います。これは手帳業界なども同様であり、意外とアナログなものってなくならないんだと、実感しています」
――売上の傾向に変化はあるでしょうか?
「出版業界が厳しい昨今、やはり多品種小ロットの縮小傾向にあります。ただ、キャラクターもので人気コンテンツが出ると、急にハネることもあります。今年だと、『鬼滅の刃』のカレンダーが大ヒット。また、弊社が企画出版をした宮崎美子さんのカレンダーも話題になりました。ある意味水物の業界ともいえる部分がありますね」
――では、カレンダーがもっとも売れたのはいつでしょうか? 変遷を教えてください。
「まず70年代は、カレンダーは“もらい物”というイメージがありました。80年代に入ると、荻野目洋子さん、河合奈保子さん、宮沢りえさんなど、タレントさんが販売用のカレンダーを出す文化が定着していきます。そして、ピークは2000年代あたり。『冬のソナタ』のブームで韓流スターのカレンダーが売れに売れ、モーニング娘。や、GLAY、L’Arc~en~Cielなどの日本のミュージシャンも人気でした。また、日本でサッカーワールドカップが開催されたこともあり、ベッカムなどサッカー選手のカレンダーも爆売れしましたね。この頃は10万本売れるとヒットと言われる時代で、とにかく出荷が追いつかないほどだったことを記憶しています」
――現在はどうでしょう。
「嗜好の細分化が起こっています。キャラクターカレンダー業界のアイテム数は、20年前では300から400。今はその倍になっており、コンテンツも多岐にわたります。タレントものでも、昔は俳優、女優、グラビアアイドルが主流だったところ、最近では声優、2.5次元、コスプレイヤーなども。アニメでもニッチなオタク系が人気になるなど、ジャンルが増えています。多品種小ロットなのが特徴で、現在では1万本売れたらヒットと言われる時代になりました」
――逆に、昔から根強い人気があるジャンルは?
「犬猫などは、世代を問わず根強いですね。ほか、鉄道や『アンパンマン』『クレヨンしんちゃん』など子ども向けアニメも強いですが、少子化の影響は出ています。意外なところでは、ミリタリー系も人気ですね。自衛隊の災害派遣やブルーインパルスのニュースの影響もあるのかもしれませんが、『艦隊これくしょん』や『ガールズアンドパンツァー』などのアニメ・ゲームのヒット作が出たことで、ミリタリー関連への関心のハードルが下がったのではないでしょうか。人で言えば、フィギュアスケートの羽生結弦選手や歌手の氷川きよしさんも強いコンテンツです」
――なるほど。カレンダーは時代の映し鏡と言えそうですね。
「そう思います。モー娘。さんのカレンダーが売れていた頃は、CDの売上も良かった時代。趣味趣向の細分化によってアイテム数が倍増していること、また『鬼滅の刃』のカレンダーがヒットしていることも、その時代時代を映しているように感じますね」
――宮崎美子さんのカレンダーのヒットは、予想されていたのでしょうか。
「反響は予想以上で、ここまで話題にしていただけるとは思っていませんでした。Twitterのトレンドに入ったことで社内も大騒ぎになり、ワイドショーなどでも取り上げていただいて。また、“カレンダー”というワードが世に出たことで業界も活性化し、他のカレンダーまで売れるという副次的効果もありました。こうしたヒット企画は狙ってできるものではなく、常にアンテナを張って引っかかる確率を上げるよう試みています。弊社の社長も『1勝9敗でいいからチャレンジを。失敗するなら前のめりに』と常に言っています」
――一方、かつては企業の販促用カレンダーが配られることが多かったように思いますが、最近ではそれも減ったような。
「企業の配り物は販促費を使うため、当然、景気に左右されます。以前はその企業のオリジナルカレンダーだったものが、タオルに変わってしまったりもしますね。そうした販促用は、商店街の小さなお店に依存していた部分もあったのですが、バブルが弾けて以降、配るのをやめたり、お店自体が廃業してしまうこともありました。これも時代の写し鏡として、不景気によって減少傾向にありますね。ただ仮説ですが、もらい物が減ったことで、逆にカレンダーを買う流れも起こっているように思えます」
――なるほど。ところで、カレンダー業界ならではの「あるある」的トリビアはあるでしょうか?
「日付にまつわるエピソードですね。例えば、節分といえば2月3日ですが、2021年はなんと124年ぶりの、2月2日が節分の日なんです。こういうことは、知識がないと見過ごしてしまいます。あとは、延期されてしまいましたが、東京五輪での祝日の変更。元号が令和に変わる瞬間も大変でした。こういったことには、いつもやきもきしています」
――そんなカレンダー業界の今後は、どうなっていくと思われますか?
「テレワーク用の卓上カレンダーなど、デジタル化、コロナ禍で一転した生活にも寄り添っていきたいと思います。また、カレンダーにはグッズ的な価値もあるので、そこにも注目していただけたら。特にタレントものは「大きさにこそ価値がある」と言われていて、B2サイズ(515×728mm)にはスマホでは伝えられない良さ、迫力があると自負しています。以前はデジタルをライバル視していましたが、今ではデジタルはデジタル、アナログはアナログで、共存のしようはいくらでもある。アナログにしかない価値を今後も見つけていきたいと思っています」
(文:衣輪晋一)
最終更新日:12/24(木)18:25 オリコン