残業代求め応じず「退職届出せ」

地質調査会社「基礎地盤コンサルタンツ」東北支社(仙台市)で働く20代の男性は、恒常的に長時間勤務をしていた。しかし、会社は残業代をほとんど支払わない。うつ状態になり、休職した男性が残業代を求めたところ、会社の返事は「あなたが戻る席はない」。絶望的な気持ちになった男性だったが、助力を得ながら闘い続けた結果、ついに労働基準監督署から会社に是正勧告がされた。

 過酷な長時間労働やパワハラに遭っても、泣き寝入りするケースは多い。厚生労働省が昨年公表した職場の実態調査によると、被害者の3割超はパワハラを受けた後、何もしなかった。そのうちの3分の2は「何をしても解決にならないと思ったから」と諦めていた。自分がもし被害に遭ったら、どうすればいいのだろう。「一度は諦めかけた」というこの男性に、行動を振り返ってもらった。(共同通信=山岡文子)
 ▽現場と宿の往復、残業は月90時間超も

 男性は2019年に入社した。建設工事予定地の地質を調べるのが仕事だ。現場は山の中が多く、宿に泊まって早朝に車で出発し、夜に宿へ戻る日々。仕事の日程は、下請けのボーリング業者に合わせる必要があるため、土曜勤務も多かった。

▽会社から呼び出され「もう信頼関係は築けない」

 そんなとき、友人が「総合サポートユニオン」の存在を教えてくれた。ユニオンは個人でも加入できる労働組合。電話をすると、男性の地元にある「仙台けやきユニオン」を紹介された。話を聞いた担当者らから、取るべきステップを一つずつ教わり、男性は動き始めることにした。

 まず、会社の裁量労働制について調べた。すると、制度を導入する際、適切な労使協定を結んでいなかったことが分かった。早速、会社に内容証明を送った。「裁量労働制は無効なので、残業代を払ってほしい」

 しかし、会社は「制度に問題ない」と返答し、支払いにも応じない。

 男性は次に、仙台労働基準監督署に申告。すると5月、会社に呼び出され、幹部から告げられた。

 「内容証明を送ってきたり、労基署に申告したりしてきたので、もう信頼関係は築けない」「休職期間が10月に終わっても、戻る席はない。この場で退職届を出してほしい」

申告を受けた仙台労基署は7月、会社に対して2件の是正勧告を出した。

 うち1件は「裁量労働制を導入した際の手続きは不適切なので無効」という内容で、未払いの残業代を支払うよう求めた。もう1件は「労基署に申告した労働者に対し『戻る席はない』などと発言し不利益な取り扱いをしたことは違法」と認定したものだ。

 この是正勧告の意味について、ハラスメントや長時間労働に苦しむ人を支援する「日本労働弁護団」の新村響子常任幹事は、こう解説する。

 「そもそも申告は労働者の権利なので、全く問題ありません。ですから申告したことを理由にした幹部の発言は報復に当たると労基署は判断したわけです」

 申告した内容が結果的に違法でなかったとしても、問題視はされない。「仮に申告した内容に違法性はないと労基署が判断しても、申告自体が非難されるものではありません」

新村さんは、今回の男性のケースが裁量労働制の問題点を浮き彫りにしたとみている。「裁量労働制は違法な長時間労働を誘発します。それなのに政府は『コロナ禍でテレワークが増えたので、柔軟な働き方が必要』という言い方で制度を拡大しようとしています。悪用する企業が後を絶たないのに、非常に危険です」
 ▽パワハラ自体は禁止していない法律

では働く人が身を守るには、どうすればいいのか。坂倉さんは(1)証拠を集めること(2)休むこと(3)社外の専門家に相談すること―の3点を挙げる。いずれも、退職する前にすることが大切という。 

 会社で使っているメールやチャットなどにパワハラや残業の証拠が残っている可能性が高い。「退職してしまうと、メールのアカウントが削除されたり、ライングループから外されたりしてしまいます。そうなると、証拠を集めるのが難しくなります」

 休職中であれば、職場の健康保険が使えるため、診断書をもらったり通院したりしやすくなる。さらに、退職すると、すぐに生活費に困る可能性もある。「そうなると就職活動に時間をかけられず、パワハラが起きるような職場で、また働かざるを得ないという恐れも出てきます」

 3点目、社外の専門家のほうがいいのはなぜだろうか。

  「会社に相談するなと言うつもりはありません。でも、きちんと対応する会社は少ないと感じています。残念ながら私たちも、全ての被害に対応しきれたわけではありません。強調したいのは、会社だけが相談先だと思い込まないでほしいということです」
 ※「総合サポートユニオン」(https://sougou-u.jp/)と 「日本労働弁護団」(https://roudou-bengodan.org/)は、ホームページに相談先を掲載している。

最終更新日:9/11(日)16:58 47NEWS

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6438395

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