(映像制作:佐藤洋紀、三本松晃/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)「職業に貴賤はないってよく言われますけど、格差は確実に存在しています」。40歳のトラックドライバーは言う。深夜に走るトラックドライバー。スーパーやコンビニには毎日新鮮な食品が並び、ネットで購入した商品はすぐに宅配ロッカーへ届く。社会インフラを支え、コロナ禍でエッセンシャルワーカーとしてその存在を意識されるようになった。しかし、仕事の現場で何が起きているかはあまり知られていない。一晩密着取材すると、物流業界が抱える問題と、世間から求められる「利便性」のしわ寄せが見えてきた。(取材・文:橋本愛喜/撮影:佐藤洋紀/取材協力:大賀運輸/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
駐車マスが見つからなかったドライバーが行き着く先は、法律違反であっても「路肩」しかなくなる。走り続けても違反、止まっても違反。休憩を取るたび、彼らは2つのルールの板挟みになる。道路交通法を取るか、改善基準を取るか。伊藤さんはこう言う。
「現場のルールを作るのは、トラックに乗ったことのない人たちなんですよね」
伊藤さんが仙台に到着したのは、周りが明るくなった午前6時ごろ。すぐに荷下ろし作業はできず、前の車の作業が終わるまで待機することになる。
今回の荷待ちは30~40分だったが、全国を走るドライバーのなかには2~3時間待たされる人も少なくない。中には21時間半待った人もいるという。しかし「客」である荷主には、強く抗議もできないのが現状だ。
夏の荷待ちはさらに過酷だ。荷待ち中はアイドリングストップを求められることも少なくないため、車内の温度は軽く50度を超える。ドライバーは待機中、順番が来るまで水と塩を口に含ませたり、トラックを降りて車の日陰で涼を取ったりしているが、熱中症による死亡事故も起きている。
働き方改革関連法の施行以降は、トラックドライバーの収入減少も危惧されている。給与形態の多くが、走った分だけ手当の付く、いわゆる歩合制だからだ。賃金水準が上がらないまま労働時間に上限が設けられれば、ドライバーの給料が減少することは間違いない。2024年を境に、生活が成り立たなくなるドライバーが仕事をやめ、人手不足に拍車がかかる可能性がある。
「トラックドライバーは手当で食ってるんですよ。賃上げは絶対必要ですね」(伊藤さん)
全日本トラック協会の資料「日本のトラック輸送産業 現状と課題 2022」によると、現在、トラックドライバーの労働時間は全産業平均より約2割長いが、給料は全産業平均より大型ドライバーの給料で5%、中小型ドライバーで12%低い。先の見えない燃料高騰に直面するなか、ドライバーに対する賃上げの声は聞こえてこない。
2024年問題に対しては、国土交通省は2020年に「標準的な運賃」を設定し、荷主に周知と活用の働きかけを行ってきた。全日本トラック協会担当者は「運送事業者は、働き方改革に対応するため、『標準的な運賃』に基づいて自社の原価を把握し、荷主と交渉する必要があるが、交渉していない事業者も多い」と話す。
「要因の一つは『荷主への配慮』でしょう。今、荷主もコロナ禍で苦しく、交渉できる状況ではないと踏み込めずにいる事業者も多いのが現状です。値上げ交渉の場で、逆に値下げを求められたり、他社に仕事を取られたりするなどのリスクを回避するために話題にあげない会社もあるようです」
しかし、労働環境を改善するために「荷主の協力」が不可欠であることは間違いない。
「荷主には、荷待ちや付帯作業に人手と費用が発生するという認識、意識を正しく持ち、適正な運賃を順守してもらわないといけないと思っています」(国交省職員)
誰だって入れる業界だけど、誰だって続けられる仕事ではない――。伊藤さんはそう胸を張る。
「今の会社(大賀運輸)は2024年問題に真摯に向き合っていて対応が進んでいます。僕の夢と目標に対しても理解し、協力してくれる。この先も長く勤めていこうと思える会社と巡り合えた僕はラッキーだと思います」
伊藤さんは、会社の理解を得てカイロプラクターというもう一つの仕事を持っている。自身が腰を痛めたことをきっかけに出会い、今はトラックドライバーの労働環境を改善するために役立ちたいという。
「同業の人たちの健康に貢献したい。各地の運送屋さんにカイロプロクターを育成するという目標を掲げて、トラックドライバーが体の不安が少ない状態で働ける環境を、日本中に広めていきたいです」
最終更新日:9/10(土)12:15 Yahoo!ニュース オリジナル 特集