大手100円ショップチェーンのダイソーが7月にニューヨーク市マンハッタンで初の店舗をオープンし、行列ができたことが米国や日本のメディアで話題となった。ほかにも、ボウリングやアミューズメントなど複合レジャー施設を運営するラウンドワンは2010年に1号店をオープンし、現在では米国で46店舗を構えるなど、好調な事業として規模拡大を続けている。日本市場の成長が頭打ちとなる中で積極的な米国進出が成功した両社の共通点とは何なのか。両社の米国における堅調さから学べる要素をまとめてみた。
こうした中、ダイソーを運営する大創産業は、7月末現在で米国に83店舗を展開。2006年に始まった米国事業を統括するDaiso Californiaの高尾 智洋社長は、日本貿易振興機構(JETRO)の7月のインタビューに「当社は売り上げ増を維持できている」と答え、米国事業の好調さをアピールした。今後も西海岸や東海岸を中心に年間15店舗以上のオープンを目指しており、さらなる成長が期待できそうだ。
ダイソーが米国で好調であるのは、インフレによるダラーストアへの追い風はもちろんのこと、家計を切り詰める米国人の心にうるおいを与える付加価値の提供が背景にあると思われる。つまり、予算の制約を受ける消費者にアピールする大きな魅力があるということだ。
事実、米ブルームバーグは、ダイソーのマンハッタン1号店のオープンを伝えた7月21日付の記事で、「今までは無印良品で買い物をしていたが、安いのでこれからはダイソーに乗り換える」とのニューヨークっ子のコメントを報じた。
大手雑貨・アパレルショップの「無印良品」を展開する良品計画の米国子会社MUJI U.S.A.はコロナ禍で行き詰まり、2020年7月に連邦破産法第11条(日本の民事再生に相当)の適用を申請。ハリウッドの旗艦店などカリフォルニア州の全店舗を閉鎖し、現在は規模を縮小してニューヨーク、ボストン、ポートランドなどでほそぼそと営業を継続している。しかし、現地の消費者からは、値付けが依然として高いとの声が上がる。
その点においてダイソーは、クオリティーにこだわる無印良品へのアンチテーゼだ。米企業向けの日本市場に関するコンサルティングを提供するJapanConsumingのロイ・クラーク共同創業者は同記事で、「人々がダイソーで買い物をするのは、品質へのこだわりがないからだ」と看破する。
ブルームバーグの記事はさらに、「ダイソーの商品は無印良品と比較するとはるかに安く、消費財や文具、化粧品、スナック菓子の基本価格は1ドル99セント(約270円)からと、ダラーストアに似ている」と指摘する。
ダイソーが米国のダラーストアと差別化を図れる理由としては、何よりも「安く、かわいく、機能的」であることだ。このうち、「かわいい」という特徴は米国で販売されている多くの商品に欠けた唯一無二の魅力だ。
ハローキティやマイメロ(マイメロディ)などのキャラクターのシールや箸、アクセサリーなどは日本のユニークさや意匠の特異さがあり、アジア系を中心に、多くの白人や黒人、ヒスパニック系の消費者の心をもつかむのである。
アニメ風のとぼけた表情のぬいぐるみや、パンダ顔のサンドイッチが作れる道具、ちょっとした小物整理に便利なドキュメントファイル、髪のカラーリング用ケープ、和風の食器、小型の洗濯ネットやトラベル用圧縮袋など、米国の店では入手しにくい「エキゾチック」な商品が安価に値付けされてあふれる店内は、切り詰めを迫られる米消費者の心に一種の「非日常感」「おトク感」を与える。
最も安い商品が1ドル99セント、高いものでも15ドル50セント(約2,100円)と、ダラーストアよりは高いが、気軽に大量消費ができる値段設計だ。MUJI U.S.A.が行き詰まった際、米フォーブス誌はその原因を、「反米国的な反大量消費主義的アプローチ」であったと分析したが、米国に進出したダイソーは手頃な非日常感がウケており、無印良品の逆張りで成功を収めているようだ。
またダイソーの米国での売上の伸びには、インフレ要因や商品のユニークさのほかに、マーケティング戦略が奏功しているようだ。
前出の高尾氏は、「顧客の人種構成はアジア系やヒスパニック系が多い。新規出店に際しても、こうしたコミュニティーが集まる場所を考慮しており、所得水準は平均より若干高めの層をターゲットにしている」と述べている。
アジア系やヒスパニック系の来店者が多いとする米メディアの報道を見ても、ターゲット層のストライクゾーンにドンピシャではまった感がある。
特に、新規出店の際には地元メディアが競って取り上げてくれるのも強みだ。マンハッタン1号店を取材した全米経済メディアである「ブルームバーグ」をはじめ、ニューヨーク市ブルックリン店を報じた米有力ニュースサイト「インサイダー」、アリゾナ州フェニックスへの出店を伝えたニュースサイト「AZCentral」、ネバダ州ラスベガス店のオープンに行列ができたことを報じた地元紙「ラスベガス・レビュージャーナル」など、どれも扱いが大きく、しかも好意的だ。
米国の普通のダラーストアであれば、新規開店に当たって、地元メディアがこのような特別扱いをしてくれることは期待できないだろう。報じられ方でも分かるように、ダイソーは米国では珍しく楽しいショッピングができる場所であり、メディアは映像や多数の画像付きで報じるため、多くの潜在顧客に低コストで効果的にアプローチができる。
さらにダイソーでは、米国の幅広い顧客に支持してもらえるよう、経営人材の現地化も図っているという。このようなローカライゼーションも、米国で成功している日本企業に共通する成功の秘訣(ひけつ)だ。
『フォーブス』誌コラムニストのウォーレン・ショウルバーガー氏は、「ダイソーがニュージャージー州で2019年に同州第1号店を開店した時も熱心な買い物客が行列をなしたが、ダイソーは米国のダラーストアや手工芸チェーンなどの強力なライバルになる可能性がある」と評価している。
一方、ボウリングやアミューズメントなど複合施設を運営するラウンドワンも、米国でそのユニークさを武器に伸びている。2022年3月期(2021年4月~2022年3月)の決算では、46店舗を構える米国事業の売上が321億3,000万円で、コロナ前を2億1,000万円上回った。
ボウリング場に、飲食ができるゲームセンターが併設されている店は米国では珍しく、米メディアが好意的に取り上げてくれるのだ。
少々旧聞に属するが、2019年12月にラウンドワンがメリーランド州ボルティモアに店舗をオープンした際には、地元紙『ボルティモア・サン』が当地商工会議所のナンシー・ハフォード会頭の、「本当にワクワクしている。わが国のアミューズメント施設とは違ったものだからだ」というコメントを紹介した。ここでも、「日本」という差別化要因が効いている。
同紙は、「プレーしたポイントをためることで、日本でしか入手できないお菓子やおもちゃ、おみやげに交換してもらえる」ことを強調していた。
しかし、米国に46店舗を構えるラウンドワンは適度な現地化も行っている。アリゾナ州ツーソン店が開店した2019年10月の地元メディアは、「アーケードゲームなどはすべて日本のものだが、食事のメニューは米国のパブのようだ。ハンバーガーやチキンウイング、ピザやモッツァレラチーズのスティック、チュロスなどが注文できる」と報じていた。さらに、子供の誕生会向けスペースレンタルも好評だ。
ゲーム分野では特に、クレーンゲームや音楽ゲームが評判で、「太鼓の達人」「UFOキャッチャー(クレーンゲーム機)」「ダンスダンスレボリューション」などの定番モノが米国人にウケるという。一方で、飲食の価格は低めに抑え、1ドルのアイスや一缶3ドルのビールが人気だという。インフレのご時世に、家族そろって楽しめる施設として、人気を誇る秘訣がここにある。
最終更新日:9/7(水)11:00 ビジネス+IT