GoTo停止 宿泊業は「袋小路」

「現場のスタッフは忙殺され、疲れ果てています。『シフトに穴は空けられない』と気力でなんとか乗り切っている状態。そこに今度はGo Toトラベル停止が加わって電話が鳴りやまない。従業員がいつ倒れてもおかしくありません」



7月に始まった政府の観光需要喚起政策「GoToトラベル」によって、ホテル業界が振り回され続けている。

山梨県内のあるホテルでは、4月の緊急事態宣言により休館に追いやられた。社員は2カ月自宅待機を余儀なくされていたが、夏以降は一転。Go Toトラベル特需に沸き、宿泊者が押し寄せた。しかし今度は、急激な業務の増加によって社員の負担が大きくなり、退職者が続出した。

そして、12月14日。今度は突然のGo Toトラベルの全国一斉停止(2020年12月28日から2021年1月11日)が発表され、キャンセルや問い合わせの電話が相次ぎ、対応に追われている。

翻弄され続けているホテルや宿泊施設で、いま何が起きているのか?

同じホテルで働く3人の女性社員が、その内情を語った。

渡辺さんが勤務しているのは、部屋数50ほどの宿泊施設。高級感のある内装と富士山を望めるロケーションで、外国人旅行客も多く宿泊する人気ホテルだった。

しかし、コロナで状況は一変する。例年春は、中国や東南アジアから多くの外国人観光客が訪れていたが、国内客も含めて宿泊数は激減した。

4月の緊急事態宣言により、5月の連休以降はホテルは休館。社員は5月、6月と自宅待機になった。

「事前予約が入っていたゴールデンウィークの6日間は営業しましたが、4~6月は昨年比で1割程度の売り上げでした」(渡辺さん)

7月には営業を再開したものの、夏休みシーズンも客足はまばら。しかしそんな状況を一変させたのがGo Toトラベルだった。

従業員は多忙を極めているが、本来年2回支給されるはずのボーナスは「ゼロ」だった。年収で考えると、月給の2~3カ月分、収入が減るという。

「夏の時点で、ボーナスが支給できない状況であることは経営層から説明があり、納得はしています。休業中も月給は満額支給されてきましたし、ぜいたくは言えないですよね……」(高野さん)

高野さんは実家暮らしで、すぐに生活が苦しくなることはないというが、住宅ローンや自動車ローンを組んでいる同僚からは、「やりくりが大変」という声も聞こえてくる。

社員の退職も相次いだ。

ホテルでは新卒採用を毎年実施しているが、2020年4月に入社した社員のうち2人がすでに退職。中堅社員もホテルを去った。

「県外出身の社員だったので、『コロナが蔓延し、地元と自由に行き来できなくなる』という不安もあったと思います。中堅社員の1人も会社を辞め、帰郷してしまいました」(高野さん)

ただ、高野さんは会社を去ろうと考えたことはないという。

「宿泊業界はもともと給与が低く、他社に転職したところで待遇改善は見込めません。『お給料をもらえているだけありがたい』と考えるようにしています」

前出の予約係・渡辺さんは、また緊急事態宣言が出された時のように、客足が途絶えることを心配する。

「Go Toを止めたって、本当にコロナを止められるのでしょうか?どこのホテル旅館もすごく努力している。これまで観光地のクラスター発生はほとんど聞いたことがないし、やっぱり納得できません。

1月以降もお客さんが戻ってこなかったら、ホテルはどうなってしまうのかと不安です」

渡辺さんらが働くホテルは、緊急事態宣言後に約2カ月間休業。その後も予約に応じて出社を減らしていたが、その際には、休業中の賃金を保障する国の制度「雇用調整助成金」を活用。従業員の月給は全額維持されたという。

しかし、雇用調整助成金について政府は2021年3月以降、「段階的に縮減」する方針を発表している。

「もしまた休業なんてことになったらどうなるんでしょうか?希望退職を募るなど、人員整理があるかもしれません」(渡辺さん)

渡辺さんは「先のことは考えないようにしている」と話すが、こう漏らした。

「Go To停止になってから『行って迷惑になりませんか』と電話をくださるお客様も多いです。売り上げを考えたら、もっとお客様に来てもらいたいけれど、このご時世で『どんどん来てください』とも言いにくい……。進むことも退くこともできない。この業界は袋小路です」

(取材・文、佐藤史親、編集・横山耕太郎)

最終更新日:12/21(月)18:34 BUSINESS INSIDER JAPAN

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6380022

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