「ミルクせんべい」は、駄菓子の定番としてはもちろん、関西、特に大阪では、夏祭りの出店などで見かける「お祭り駄菓子」としてもよく知られています。薄くついた赤・黄・青などのカラフルな色味とフワフワの食感は、今も昔も変わらないミルクせんべいの魅力です。大阪ではコンデンスミルクをかけて食べるのが主流ですが、実は地域によって食べ方が異なるのだそう。全国でも数少ない、ミルクせんべいの製造会社、寿宝製菓有限会社(愛知県碧南市)に話を聞きました。
――地域ごとに需要は異なるのでしょうか?
ミルクせんべいは現在、おそらく愛知県の2社、東京の1社で製造が行われています。うちは、関西圏からの需要が比較的強い印象です。関西ではおもに屋台で扱われることが多く、昔は紙芝居などでも提供されていました。コンデンスミルクを塗って食べるのが主流ですが、関東では梅ジャムを塗って食べることもあるそうです。
ほかにも、新潟県では「釣りせんべい」といって、釣り針の先に刺して、魚のえさとして使用される方もいます。地域は関係ありませんが、言語教育の一環として、舌にのせて言葉の発育支援を行う方もいるそうです。
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さらに、ミルクせんべいを調べていくと、「コンデンスミルクを塗る食べ方は関西流の食べ方」という声も見つけました。果たしてその真相は? 現在はひな人形やおもちゃの問屋街として有名な大阪・松屋町に唯一残る駄菓子屋問屋、株式会社タニカトーイ(大阪市中央区松屋町)の谷さんに話を聞きました。
――タニカトーイはどのような店なのでしょうか。
【谷さん】 うちは駄菓子屋さんに品物を卸す「駄菓子問屋」です。松屋町で商売して80年。駄菓子屋さん以外にも、学校関係者、あとは習い事教室をしている人たちが、イベント行事の際に必要な景品やお菓子をよく買いに来てくれるよ!
――道中、問屋の数が多くて驚きました。昔から松屋町はおもちゃや駄菓子の問屋が多いイメージですが、最近はいかがでしょうか。
【谷さん】 問屋さんはどんどん少なくなってきてるよ。代わりにマンションが増えていってる。後継者問題もあって、なかなか跡を継ぐ人がいないのも問題になってます。駄菓子屋問屋も、私が子供のころには7件ぐらいあったんやけどね。今は大阪市内で見ても、うちくらいしかないと思うわ。もともとは駄菓子問屋をきっかけに、紙や文房具などの問屋も浸透していって、松屋町は子どもに喜ばれる「問屋商売の町」として有名になったんやで。
――駄菓子問屋がきっかけで松屋町の問屋イメージは開拓されたのですね。今回ミルクせんべいのことを取材しているのですが、需要はいかがでしょうか。
【谷さん】 ミルクせん、めちゃくちゃ売れてるで! 特に今年はたくさん売れてます! 夏はいつも「たこせん(たこ焼きやソースをかけて食べるせんべい)」の方が売れるんやけども、今年はなぜかミルクせんべいの方がたくさん売れてる。
――実は、コンデンスミルクをかけて食べるのは関西流だそうです。
【谷さん】 え! それは初耳やわ。ミルクせんべいといえば、コンデンスミルクをかけて食べるもんやからなあ。それ以外の食べ方は知らんなあ。
あと、食べるときはミルクの分量がめちゃくちゃ大事。挟んだときにはみ出ないように、真ん中にどっぷりかけることが重要や。コンデンスミルクのかたさもあるから、慎重にやで! 枚数は、いっぱい重ねずに2枚で食べるのが一番。甘さをしっかり感じることができる食べ方や。
――ちなみに、関東では梅ジャムをのせて食べることもあるそうです。
【谷さん】 梅ジャム!? こっちでは聞いたことないなあ。ミルクせんべいは、いかに甘い状態で食べるかが大事やからな!
――ミルクせんべいの魅力とは何でしょうか。
【谷さん】 なんやろう……。やっぱり優しい味かな! ミルクせん自体が優しいからね。口の中に入れてフワッとする感じが、大人も子どももみんなが食べたくなる理由だと思います。
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タニカトーイを訪れた小学校の先生に話を聞いてみたところ、学校行事でミルクせんべいを提供することも多いのだそう。数字が書かれたわりばしを引いて、書かれている数字の枚数分だけミルクせんべいを食べることができる、というくじ引き形式で披露したそうなのですが、子どもたちからは大好評だと話してくれました。
関西では今も昔も変わらず、定番駄菓子のなかでも不動の人気を獲得しているミルクせんべい。コンデンスミルクの関西と、梅ジャムの関東。甘味と酸味で分かれている要因は、それぞれの地域の食文化が関係してくるのかもしれません。従来の食べ方にとらわれず、あなただけの新たな食べ方を開拓してみてはいかがでしょうか。
(取材・文=弘松メイ)
最終更新日:7/28(木)10:38 ラジトピ ラジオ関西トピックス