冷食の自販機「エキナカ」に商機

ラーメンにハンバーグ、海鮮丼、ウナギのかば焼き、ケーキ――。冷凍食品の自動販売機が最近、街に急増している。火付け役となったのが、ある自販機メーカーが2021年1月に販売を開始した製品だ。「自販機大国」といわれる日本だが、実際は国内の自販機はピークの00年から160万台も減り、メーカーの撤退も相次ぐ。逆境の中、販売開始から1年余りで出荷台数が3000台を突破した自販機の名前は、その名も「ど冷(ひ)えもん」。ヒットのわけは。



 ◇縮小傾向の市場、メーカー2社のみに

 「自販機大国」という言葉とは裏腹に、国内の自販機市場は縮小傾向にある。特に全体の5割以上を占める飲料自販機は「設置できるところには設置し尽くした」(業界関係者)と言われるほどの飽和状態だ。コンビニなどとも競合する上、人手不足で商品の補充のための人員確保にも苦労する。

 業界団体の日本自動販売システム機械工業会の統計では、たばこや食品、発券機なども含めた自販機の普及台数はピークの00年の約560万台から21年は約400万台に減少。00年代以降、メーカーの撤退も相次ぎ、現在、国内で飲料や食品の自販機を製造しているのは、サンデン・リテールシステム(東京都墨田区)と富士電機(東京都品川区)の2社だけになった。

 そうした中、コンビニなどのショーケースも手がけるサンデンが新たな分野として着目したのが、コンビニで売り上げが伸びている冷凍食品だった。21年1月、「ど冷えもん」の名前で販売を始めた自販機は、19年3月の開発スタート時には想像もしていなかった形で注目を集めることになった。新型コロナウイルスの感染拡大で、休業や営業時間の短縮を余儀なくされた飲食店などが、減少した売り上げを補うためこぞって店の前などに設置するようになったからだ。

 ◇大小サイズに対応の新機種

 「ど冷えもん」は自販機内部の仕切り板の組み合わせで大小さまざまなサイズに対応し、スイーツのような小さな商品から弁当のような大きな商品まで、たいていの冷凍食品を販売できるのが特徴だ。また、専門の業者に補充を依頼するしかない飲料の自販機と違って、誰でも補充できる簡単な構造にし、普及しやすくした。サンデンによると、今年3月末までの出荷台数は累計で3000台を超えるという。

 今年2月にはライバルの富士電機も追随し、「FROZEN STATION」の名前で冷凍食品の自販機を発売。同社は1990年代から食品メーカーの「ニチレイ」向けに冷凍食品の自販機を累計で約5000台製造していた。ただ、設置場所が高速道路のサービスエリアや観光地、ホテルなど限られるうえ、老朽化もあって昨年までに撤退。今回、一般消費者向けに再参入することにし、これまでに約500台を出荷した。

 飲食店などから始まった自販機の設置場所も商業施設や駐車場、街角へと広がり、最近になって増えているのが、人通りが多く売り上げが見込める駅構内の「エキナカ」だ。博多名物の明太子などを製造する、やまやコミュニケーションズ(福岡市東区)は21年7月、出張者や旅行客らをターゲットにJR博多駅の新幹線改札口前に明太子ともつ鍋の自販機を設置。今年6月には鹿児島線のホーム、7月には駅構内のメイン通路にも1台ずつ追加した。

 ◇「エキナカ」に商機、広告効果も

 7月には福岡市地下鉄の駅構内にも初めて登場。博多と天神南、薬院の3駅の改札口付近に冷凍アジフライの自販機を設置した水産会社、三陽(福岡市中央区)の横山裕二さん(44)は「1台に60個入るが、想定以上の売れ行きで補充が追いつかない」とうれしい悲鳴を上げる。JR西日本のエキナカ事業を手がけるジェイアール西日本デイリーサービスネット(兵庫県尼崎市)も、21年9月にギョーザの自販機を設置した尼崎駅を皮切りに、芦屋駅や塚口駅(いずれも同県内)などに順次拡大している。

 エキナカに設置する狙いは直接的な売り上げへの期待だけではない。7月に地下鉄の博多駅に海鮮丼の具の自販機を設置したKANAME(福岡市南区)の本業は「糸島海鮮堂」の屋号で展開する海鮮丼の具のインターネット販売だ。自販機の正面や側面には海鮮丼の大きな写真とともに「糸島海鮮堂」と目立つように書かれており、田中要治社長(47)は「名前を知ってもらうことも駅に設置する理由」と説明する。博多駅などの主要駅に広告を掲示すると1枚につき月に十数万円かかる。アジフライの写真や会社名をあしらった側面や背面も見えるように設置している三陽の横山さんは「交通広告を複数出すのに比べれば設置費用ははるかに安価。チャンスがあれば関東や関西などの駅にも置きたい」と語る。

 サンデン・リテールシステムの芳賀日登美・広報室長は「最初のきっかけはコロナだが、今はコロナに関係なく広がっており今後も冷凍食品の自販機は伸びる」と自信を見せる。以前からあるカップ麺やパンなども含めた食品自販機が自販機全体に占める割合は、現状では1・8%(同工業会、21年12月末現在)に過ぎない。果たして冷凍食品の自販機は業界の救世主となれるか。【井上俊樹】

最終更新日:7/24(日)19:47 毎日新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6433555

その他の新着トピック