「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の興行収入が、歴代1位に向けてカウントダウンに入った。東宝の単月興行収入が前年比で10倍に達し、最終巻発売日の早朝には書店周辺の来訪者が通常の2倍に。カレーのコラボ商品が一時、同分野平均の57倍を売り上げるなど波及効果も幅広い。社会現象とも言えるヒットの実態をデータで検証した。
缶コーヒーは15倍、歯ブラシは30倍、レトルトカレーは57倍――。全国のスーパー約460店の販売動向を集計する「日経POS情報」で分析すると、鬼滅コラボ商品のすさまじい売れ行きが明らかになった。
来店客1000人あたりの販売金額を週単位で集計し、同分野の商品全体の平均額と比較した。
朝6時台の合計人数は11月の1日あたり平均が約1万人なのに対し、12月4日は約2万1千人。8時台は約3万2千人に対し約6万人と、3時間にわたって2倍前後で推移した。「一刻も早く読みたい」と考えた消費者が開店前に列をなしたためだ。
会社員の40代男性は、発売日に有給休暇を取った。掲載誌で結末は知っていたが「話を連続して読むと改めて違った感動がある」という。
映画本体のデータも驚きを呼び続ける。「桁を間違えてない?」。9日に東宝が発表した数字がSNSで話題になった。同社配給作品の11月の興行収入が前年同月比で「1063%」、つまり10.6倍を記録。鬼滅の公開日(10月16日)が例年は大作がない端境期であることを考慮しても、驚異的な伸び率になった。
JCBのクレジットカード決済額をもとにナウキャスト(東京・千代田)がまとめた消費データをみると、映画館全体の消費動向指数は10月後半に前年同期比48%増と、2月前半以来のプラスとなった。辻中仁士・最高経営責任者は「単一の商品・サービスが業界全体の指数をここまで押し上げるのは異例」と話す。
東宝は15日、歴代1位である「千と千尋の神隠し」の興収を316億8千万円に更新したと発表した。今年のリバイバル上映による8億8千万円を上積みしたためだ。鬼滅との差は14億円に広がったが、逆転は時間の問題となっている。
(藤村広平、平岡大輝)
最終更新日:12/18(金)21:39 日本経済新聞 電子版