文具店からIT企業に 3代目の葛藤

宮城県塩釜市のIT企業「高山」は、3代目社長の高山智壮さん(36)が祖業の文具店を閉じて事業転換しました。東日本大震災を機に家業に入り、社員に背を向けられる苦い経験も味わいながら後継ぎとして成長しました。サイバーセキュリティー支援にいち早く参入し、デジタルトランスフォーメーション(DX)のノウハウを提供するソリューション企業として評価を高めています。

高山さんが課題を感じたのは、文具などの収益性の低さでした。「文具はどこでも買える消耗品で競争が激しく利益率も低い。高付加価値型の事業を模索しました」

 着目したのはサイバーセキュリティーでした。「うちで扱っているパソコンや複合機との親和性が高く、需要をつかめば他の事業も伸ばせると思ったんです」

 14年5月、社内のエンジニアとともに、中小企業向けにサイバーセキュリティーのソリューションを販売する新事業を立ち上げました。自社でサイバーセキュリティーがどの程度実施・実装されているかを診断してリポートを作成。メール型のウイルスに社員が対応できるかをチェックするため、訓練用のテストメールを送るなどのサービスをそろえました。

 さらに、導入後にパソコンをウイルスからどのくらい守れているかをリポートにまとめるなど、アフターフォローの強化で他社との差別化を図りました。

 最初は長年の取引先にサイバーセキュリティーを広めようとしました。しかし、当時はほとんどの人にとって対岸の火事で、取引先からも「なぜ高山がサイバーセキュリティーを扱うのか」と、なかなか受け入れてもらえませんでした。高山さんは地元企業を一つひとつ回って情報提供を行い、2カ月に1度のペースでセミナーを開き、啓発に励みました。

 すると、少しずつセミナーの依頼が舞い込むようになり、地元の商工会議所で開催すると平均20~30社が集まるようになりました。16年には宮城県警からサイバーセキュリティーに関する講演活動を委託されました。事業が軌道に乗って業績もV字回復。現在も官公庁を含め、年間数十回ほどのセミナーを開いています。

新型コロナウイルスの流行を受け、同社もすぐにテレワークを導入し、クラウド化やペーパーレスなどのDXを進めました。ワークフローを洗い出して不要なプロセスを断捨離し、必要なツールだけを残しました。中でも欠かせないツールが、MAXHUBという大画面の電子ボードです。タッチパネル式でホワイトボードのように画面に書き込めるほか、画面共有機能、リモート会議に必要なマイクやカメラなども搭載しています。

 同社ではMAXHUBを3台導入し、社員同士をカメラでつないで遠隔でも仕事ができるよう整備しました。「父には投資過多ではないかと言われましたが、これからの働き方を見据えて導入しました」。社内で実証実験をして、テレワークでも関係性を大切にしながら働ける環境を構築していきました。

 高山さんはこのノウハウを生かし、中小企業のDX導入を支援する新規事業を始めました。より簡単に導入できるように、導入前にどんな対策が必要かを診断し、必要なITツールを会社ごとにカスタマイズしています。「これまでどこにでもある文具や事務機器しか販売できませんでしたが、自社独自のものを売れるようになりました。DXは複数のツールを入れるため1社と長く付き合うことになり、収益の見込みも立てられます」

高山さんは父と事業承継の準備を進め、承継日を22年1月11日に定めました。全社員に伝えたのは4カ月前の21年9月1日でした。承継にあたって、高山さんは祖業の文具店を閉店し、IT・DX企業に転換することにしました。コロナ禍で文具店の売り上げが下がり、回復の見込みが立たなかったのも理由になりました。

 祖業をやめることに葛藤はありましたが、実績を見てきた周囲も賛同してくれました。「競争が激化している市場でこの先20年、30年働くより、これからの時代に求められる仕事で強みを発揮したい。事業の定義を変えることが最も重要だと思いました」

 承継までの4カ月で、高山さんは再びオフィスをリノベーションしました。今度は社員の意見を反映し、これまでの店舗部分をカフェのようにおしゃれなオフィスエリアに刷新しました。

最終更新日:7/10(日)13:00 ツギノジダイ

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6432145

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