暮らしに欠かせない食品や電気料金を含む物価高騰が、シングルマザーなど困窮家庭の生活や障害者の働く場を直撃している。「給食が無い夏休みは不安」と、親の危機感が強まる中での参院選。論戦に切実な声は届くのか。
◇支援世帯の85%「物価高騰で苦しく」
「物価高騰で生活が苦しくなった」。困窮子育て世帯を支援する認定NPO法人キッズドア(東京都)の調査で、そう回答した世帯は8割超に上った。おかずを減らすなどして切り詰めており、おなかいっぱい子どもに食べさせられない親の苦悩が浮かび上がる。
調査はキッズドアが支援している家庭に対し6月に実施し、1386世帯から回答があった。最近の物価高について「生活が大変苦しくなった」48%と「苦しくなった」37%を合わせて85%に達した。最近の子どもの食事については、複数回答で多い順に「食事の栄養バランスが悪くなった」64%▽「食事の量が減った」60%▽「肉や魚が買えない」37%――との結果だった。
世帯全体の食費などから1人当たりの毎月の食費を推計したところ、「1万2000円~1万4000円未満」となる世帯が最も多い。1日500円に満たない計算だ。キッズドアが支援する家庭は母子家庭が大半で、世帯年収200万円未満が多いという。自由回答には「給食が無い夏休みは不安を感じる」「おかずがある食事は1日1度になりそう」などと切実な声がつづられていた。
◇「給食がなくなる夏休みが危険」
政府は物価高の緊急対策として、低所得の子育て世帯に子ども1人当たり5万円を給付している。ただ、新型コロナウイルス禍で大きな影響を受けた非正規雇用の親が多く、もともと家計は厳しい。理事長の渡辺由美子さんによると、過去の低所得者向けの給付金については、滞納していた公共料金や借金の支払いで消えてしまうとの声が届いてきた。
渡辺さんは「普段から食費を抑えていて、これ以上は減らしようがない。給食がなくなる夏休みが危険。値上がりが命に関わる苦しさになっている」と訴え、政治に対しては「子どもは食べなければ成長しない。最優先で対策を打ってほしい」と求めた。
キッズドアではコロナ禍が始まった2020年から食料の無料送付を実施。今年も夏休みに向けて全国の2500世帯に、お米や野菜、冷凍食品といった食料を届けることを目指してクラウドファンディングを実施している。寄付の受け付けはウェブサイト(https://congrant.com/project/kidsdoor/4905)で。
◇電気代25%跳ね上がる
障害福祉事業所「かがやき共同作業所」(埼玉県行田市)では、知的障害のある利用者数人がマスクやフェースシールドを着けてテーブルを囲み、あんパン作りをしていた。コロナ感染と熱中症の両方に気を配り、窓を少し開けて、エアコンは25~26度に設定している。そうなると頭が痛いのが電気代だ。
契約していた新電力会社は燃料価格の高騰に伴い撤退し、東京電力に戻った。4月の電気代は前年より25%(約4万円)も上がった。それでも、利用者の中には持病のために体温調整が難しい人もいて、エアコンは欠かせない。明かりはすでにLEDに交換しており、施設長の小野寺孝仁さん(59)は「使っていない場所は電気をこまめに消すぐらいしか節電できない」と諦め顔だ。
ガソリン代もかさむ。車5台での利用者の送迎や、生花の配達事業に使うガソリン代は21年度、前年度より15%(約18万円)も増えた。
パンの原材料の小麦粉、砂糖、カスタードクリームなどは軒並み値上がりしている。10年以上も1個120円(税込み)で販売していた各種パンは6月末、ついに140円に値上げした。赤字を避けるためだが、買い控えが懸念される。
運営法人の経営努力も限界で、職員の基本給は据え置きが続いている。行田市は緊急に、物価高対策として福祉施設などに対する5万~20万円の支援金給付を決めた。だが小野寺さんは「ないよりは助かるが、焼け石に水だ。物価高騰は長引く見込みなので、継続的な支援をしてほしい」と要望。また物価高対策は自治体によって対象や額が異なることから「障害者が安心して暮らせるよう、全国どこでも支援策が届くようにしてほしい」と話した。【中川友希、山縣章子】
最終更新日:7/2(土)23:37 毎日新聞