携帯電話料金の引き下げに続いて、武田良太総務大臣が肝いりの政策として着手しているのがNHK改革だ。NHKへの国民の不信感が強い中、受信料の早期引き下げについて「早期にやらずしていつやるのか」と批判し、値下げを求めています。新型コロナウイルスの感染拡大で多くの家計が苦しんでいることを背景に「国民の負担軽減」を呼び掛け、NHKには「放漫経営」と一喝する武田大臣。携帯料金に引き続き、NHKの改革も進むのでしょうか。(聞き手/経済アナリスト 馬渕磨理子)
● 「携帯料金よりもNHK改革を」の声 受信料に対する国民の不信感は強い
馬渕 携帯電話料金引き下げの次に、着手しているNHK改革について伺います。今のところ、報道で具体的な内容が出てきていません。NHKの前田晃伸会長とはどのような話を進めているのでしょうか。
武田 携帯電話料金の引き下げを行う中で、国民の皆さまから激励のお言葉をもらいました。その中で、「携帯電話料金も重要だけれど、もっと改革に着手してほしいのがNHKだ」との声が非常に多かったです。
馬渕 国民から、「もっと着手してほしいのがNHKの受信料だ」と。
武田 携帯電話は国民にとって必要不可欠なものであって、ある程度のコストを支払うのは仕方ないとの意見が多いです。しかし、「NHKは必ずしも必要なものではないのに、なぜわれわれが受信料を払うのか」という国民からの根本的な不信感があります。しかも受信料は高い。
武田 NHKは災害や選挙放送を担っています。また、視聴率やスポンサーの色が付かないという面では、公共放送としての役割を果たしています。しかし、国民から「携帯電話はいいけれど、NHKは許さん」というような声が出ている今こそ、NHK自身が視聴者を顧みる最後のチャンスではないでしょうか。「公共放送としてどうあるべきか、考えてもらいたい」と私はNHKに対して言っていますよ。
馬渕 携帯料金に関して、武田大臣は「NTTドコモは実に6割強の値下げだ」と評価しています。NHK受信料の値下げは、どれぐらい下げるイメージですか。
武田 受信料の値下げをはじめとして、NHKには改革を進めていただきたい。やり方はさまざまあるでしょう。それを公共放送の立場として、まずはNHK自身で考えていただきたい。
● NHKは“放漫経営” 受信料値下げにぐずぐず言うのは常識がない
馬渕 今後は、NHKから出された案に対して、今回の携帯電話のように「それではいかん」といった意見をおっしゃる可能性もあり得るのでしょうか。
武田 もちろん、あります。国民目線に立って、「何をやっているのか」と思う部分があればお伝えしていく。今まで、ある意味で“放漫経営”なわけです。収入の大半が受信料でありながら「内部留保」に当たる繰越剰余金が1280億円も積み上がっています。剰余金全体を見ると、連結決算で建設積立基金と子会社の剰余金を含めれば、3700億円くらいあるわけです。そして、毎年200億円ぐらいの黒字を計上してね。20年11月下旬に公表した中間連結決算は、純利益に相当する事業収支差金が約430億円です。これだけの利益を出しているのに、受信料の値下げをぐずぐず言っているってこと自体が、国民に対して常識がないですよ。
馬渕 コロナ禍で家計が苦しい国民に還元していくべきだと。
武田 当たり前のことです。このコロナ禍において、早く決断して早く国民の負担を減らさなければ。1カ月値下げが遅れるごとに国民の負担が1カ月増えるわけです。
※編集部注
NHKの受信料制度などについて議論する総務省の「公共放送の在り方に関する検討分科会」が11月20日、報告書案をまとめた。案には、テレビを持っているにもかかわらず、契約に応じない世帯に対して新たに「割増金」を課す制度の新設が盛り込まれた。国民負担軽減の観点よりも、「どうやって取り立てるか」に力点が置かれている点に武田総務相は不満を示しているといえる。
馬渕 12月3日の記者会見で前田会長は「物事には手順があり、下げたいのはやまやまだが、ただ下げれば済むということではない」と述べ、慎重な姿勢を示しています。武田大臣とお話をしている中では、改革に対しては「やっていきます」といった“同意”のスタンスを示しているのですか。
武田 同意されています。スリム化、強靱化を進めていく意向です。先ほど述べたように、NHKの剰余金は約3700億円あります。受信料の引き下げや、子会社の整理もできるでしょう。
● NHKは子会社が多過ぎる 給与も民間企業と冷静に見比べてほしい
馬渕 少なくとも大臣から見て、ここは、すぐ対応できるんじゃないかと思えるところはございますか。
武田 子会社が多過ぎる。なぜそんなに子会社が必要なのか。今ある本体のセクションで十分賄えるところもあります。給与も民間の企業と冷静に比べてもらいたい。
馬渕 決算データから、平均給与額は1090万円と、1000万円を超えます。
武田 その通りです。NHKの実態は、前田さんの出身である銀行(※編集部注 NHKの前田会長はみずほフィナンシャルグループ出身)とも比べて、どこがどう違うかを照らし合わせていけば、おのずと改革案は出てくると思うんですよね。
私がNHKの皆さんにお伝えしているのは、「政府が言っているうちはまだいいです。燎原の火のごとく世論に火が付いたときは、存亡の機になりますよ」ということです。そうなればNHKは立ち行かなくなるわけです。その前に、国民から納得してもらえる受信料の料金水準とコンテンツのクオリティーを保つべきです。
馬渕 何が無駄なのでしょうか。
最終更新日:12/17(木)12:16 ダイヤモンド・オンライン